第5話:ロードー相談室

「よーし、お前ら順調順調」

「はっ、サトウ様のおかげで、知恵というものを得ましたから」

「うむうむ、苦しゅうない。俺もヒントをだすけど、お前らもいろいろ考えて試行錯誤して、ここをよりよくしていこう」

「はい!」


 俺の言葉に、ひときわイケメンのナイスミドルゴブリンが頭を下げる。 

 この集落の村長の息子だ。

 村長の他に長老と呼ばれるゴブリンが5匹。

 そして最長老のゴブリン。

 この7匹で、ある程度の集落の発展は任せることにした。

 毎晩集まって長老会と呼ばれる会議をしている。

 俺に対しては嘘もつけなければ本能で忠誠心が振り切れているので、俺に対する裏切りやへんなことは考えないと思うが。


 そして長老会が出した案や決議に沿って働き盛りのゴブリン達が、インフラと呼べるほどのことではないが色々と集落についてもコテ入れをしている。

 ゴブリン共の住環境についても、徐々によくなっている。

 土魔法が使えるゴブリンも増えたし、力も増えたから今までの木の枝と草を組み合わせた家から土で造った家へと順次建て替えている。

 それに差し当たって、区画整理や道の舗装なども。

 トイレ問題は一応決まった場所にすること、終わったら洗浄魔法と消臭魔法を使って水で流すこと。

 そこまではオッケーだ。

 水を流した先には、大きな肥溜め。

 定期的に消臭魔法を掛けている。

 しかし最終処分については、いい案が出てこない。 

 長老会の今の最重要課題だ。

 

 長老会のことも出たわけだし、ここでこの集落のゴブリンについて少し詳しく整理しよう。

 家に帰って、インターフェイスを開いて名簿で個々の能力と役割、成長具合を再確認していくか。

 そうと決まれば、さっさと帰るか。


「ロード! お聞きしたいことがあります」


 ゴブリン達についておさらいをしようと家に戻ろうとしたら、一匹のゴブリンに呼び止められた。

 多少よくなったとはいえ、緑色であれな人型の生物。

 とはいえキラキラとした目で、期待した様子で話しかけられたら応えるしかないだろう。


「どうした?」


 ということで、道にあるベンチに腰掛けて話を聞くことに。


「……」

「では、話を聞いていただいても宜しいでしょうか?」


 いや、宜しくない。

 絵面が非常に、宜しくない。 

 

「いや、相談だろ? 横に座れよ」

「恐れ多い」


 俺だけがベンチに座った状態で、目の前で正座されるとか絵面的にあれじゃないか?

 怖い先輩ヤンキーに怒られてる、後輩ヤンキーの図とか。

 譲る気がないみたいなので、仕方なく俺も下に……それはだめなのね。

 俺が下に座ろうとしたら、土下座でやめてくれと言われてしまった。

 もういいよ。 

 話が進まないから、俺が折れるよ。


「うーん、それはお前が気になるからよく見てるだけだろ? でもって、相手側は視線を感じるからお前の方を見るわけだ。そうなると、目が合うのは必然ともいえるわけで……」

「じゃあ、私に気があるわけでは……」

「微妙なところだな。お前が視線を感じてそっちを見て、目があったのなら多少は脈はあるかもしれないが……」


 なんで俺は緑色の猿と人の中間みたいな生き物の恋愛相談を、真面目に受けているのだろうか。

 てか、ロードって結構偉いんだよね?

 そんな人相手に、恋愛相談とか勇気あるなお前。

 告白する方が、よっぽど楽じゃないか?

 俺に相談するくらいだから、出来るよな?

 なあ? できるよな? なっ?


「もう少し、様子を見てみます!」


 そうか……俺にくだらない相談をするより、告白する方がやっぱりハードルは高いか。

 まあ若干、希望が見えたというような表情をしているからよしとしよう。

 ただびっくりするくらい、2匹の行く末に興味が湧かなかった。

 さてと、じゃあ帰ってゴブリンについて……


「ロード! 私の話も聞いてください」


 今後はメスのゴブリンか。

 器量を伸ばしたおかげか、だいぶ愛嬌のある感じにはなっているが。

 器量にも2つの要素があって、容姿とカリスマがあるが。

 容姿に全振りしているからな。

 確かに可愛いけど、そういう可愛いじゃない。

 そもそも肌が緑色なのがちょっと……

 あと、改善されているとはいえ弛んだ皮膚とか、歯並びとか……色々と鑑みると、外角低めの完全なボール球なんだよなこいつら。

 ブサ可愛い……というわけでもなく、可愛いんだけど可愛いの意味合いが違う。

 マスコット的な可愛さだな。

 うん、ちょっとしっくりきた。

 マスコットからの相談かー……

 とはいえ、やっぱり期待した目で声を掛けられると、つい足を止めてしまう。


 ……本当にどうでもいい、しょうもない相談だった。

 弟のように可愛がっていた相手から告白されたけど、弟としてしか見られないとか……

 それって、俺にするような相談じゃないと思うんだけど?

 まあ、真剣に考えて真摯に対応しろと言っておいたが。

 本当に……本当にどうでもいい。

 というか、家までの道にゴブリンがあちこち潜んで、こっちの様子を伺っている。

 確かに俺は童貞でも、恋愛経験がないわけでもない。

 でも、浮名が立つほどのジゴロでも、恋多き男子でもない。

 恋愛相談されても無難な回答しかできない、ポンコツだ。

 げんなりする。


「ガアアアア!」


 とりあえず両手をあげて、威嚇。

 すごい勢いで、蜘蛛の子を散らすように去っていったけど……

 こいつらが最近落ち着きを手に入れてきているからか、俺がこの集落で一番野蛮な気がしてきた。

 少し憂鬱になった。


 とりあえず家に帰れたので、ゴブリンについて。


「ロード!」

「うがあああああ! なんだ! なんだよ!」

「ひっ、申し訳ありません」


 家にまで来た奴がいたので、本気で威嚇して怒鳴ってしまった。

 村長の息子のイケゴブだった。


「もういいよ! なんだよ!」

「いえ、道の整備の件で確認したいことがありまして、平たい大きい石を敷き詰めるとのことでしたが魔法で石を作り出すなら板状の石を作って敷き詰めた方が道としていいかと考えまして。ただ、勝手にやる前にロードの意図を確認するべきかと」

「どっちでもいいわ! 板状の石でもレンガっぽいのでも石でも。ただ、不揃いな石を敷き詰めた方が風情があると思っただけだわ! 機能性を考えたら砕石舗装をやらせとるわ。さらにいえば、材料さえあればアスファルト一択だよ!」

「砕石舗装ですか? それはどういったものか、詳しく教えてもらいたいのですが。あとアスファルトとはなんでしょう?」

「マカダムさんに聞け! 俺は、今からやることがあるんだ!」

「マカダムさんですか?」

「……もういい。お前に任せるわ」

「いえ、私に何か落ち度があるのなら、おっしゃっていただければ改善致します」

「いいよ、お前は何も悪くない。強いて言うなら、間が悪かったのと察しが悪かったくらいだ」


 誰だよ、こいつをこんなに面倒くさい仕様にしたのは。

 俺だよ!

 まあ、報連相と確認は大事だけどな。

 空気を読むのも大事だよな。

 もういいや。


「ある程度は自由にしてくれ」

「分かりました。途中で確認だけはお願いいたします」

「分かった分かった」

 

 とりあえず手を振って、イケゴブを追い払う。

 しかし、本当にこいつらは俺を慕ってくれるのが分かって、有難いわ。

 半分皮肉だけど、半分は本心だ。


 話は変わるが、なぜこんなに話しかけられるようになったかだが。

 この世界の人間が使う言葉もこいつらには覚えさせている。

 こいつらがこんなに嬉しそうに俺に話しかけてくるのは、自分たちが一生懸命頑張って覚えた人の言葉を聞いてほしいという感情も少なからずあるのだろう。

 なんせ、俺が教えていたからな。

 そう考えると可愛げがあるし、無下にもできないんだけどな。


 だいたい俺が不思議な力で使えるようにしてもらえたから、言語もありがちなスキルの一つだろうと安易に考えてしまった。

 だから、こいつらも簡単にできようになると思ったのが間違いだった。

 スキルでもなんでもなく、マジーンから俺の業務に必要だからと与えられた特典だったんだよ。


 だから地道に教えたけど、そこま苦労はしてない。

 もともとどうあっても、俺とこいつらは会話が出来たからな。

 だから俺の話す人の言葉も、こいつらは音と意味が理解できた。

 なので、あとはメモして覚えるだけ……問題は、ゴブリンは文字を扱わなかったという根本的な課題にぶちあたってしまったが。

 ひたすら、頭の中で反芻して音を覚えていった。

 知性は割と上げていたので、たどたどしくも人の言葉を喋っている。

 そして俺の方は職務上必要ということでもらった、言語理解のお陰で彼らの思うところがスムーズに伝わってくる。

 はたからみたら、たどたどしくところどころ間違った片言の言葉を話す人に近くなった猿だが。

 俺と普通に会話が出来るお陰と、こうやって積極的に話しかけてくるから日に日に進歩はしている。

 確実に前に進んでいることが分かるので、教える身としても全然苦痛じゃない。

 ちょっと相手にするのが面倒くさいと思うことは、多々あるが。


 そんなことよりも、驚いたことがある。

 ゴブリンについて振り返る前に、自分について振り返るべきだった。

 そう、俺がびっくりしたのは、水に映った俺の姿が普通だったことだ。 

 いや、かっこよさを10割増しにしたくらいの、俺だったってこと。

 ジャッキーさんに取り急ぎで鏡を持ってきてもらったけど、不思議そうに首を傾げていた。


 いや、視界に映る腕やら足やら腹やらの肌が肌色だなとは思っていたが。

 完全に顔も日本人。

 髪の毛もフサフサで、眉毛もある。

 全然気にしてなかったから、無精ひげまで。

 どこからどうみて、日本人。

 ゴブリンロードって言われてたから、結構こいつらと似たり寄ったりだと思ってた。

 だから俺も、ステータスは器量を結構伸ばした。

 こいつらと違って、ポイントが滅茶苦茶大量にあるから。

 どうも度胸がなくて、大量消費はできないけど。

 それでも、割と多めに割り振った。

 だからか、色々とイケメンな俺になってた。


 肌色って便利だよなー……

 その言葉を口にした人の肌の色だもんなー。

 じゃあ、ゴブリンが肌色って言ったら、緑色だなー……

 白も、黒も、黄土色も、緑色も全部肌色……

 肌色とは、もしや真理では?

 その言葉の思想の先に、何か壮大な理が。

 肌色こそ生物を表す究極の……

 やばい。どうでもいい事を、真剣に考えてしまった。


 鏡に映っていた顔は確かに自分なんだけど、かっこよくなりすぎてて……でも整形した感じじゃなくナチュラルな変化に意識がぶっ飛んでた。

 だから、ついついしょうもない事を真剣に考えていた。

 ようは、俺の言う肌色は緑色じゃなくて黄土色っぽい感じってことだ。

 それでもゴブリンロードらしい。

 自分のステータスの種族名は人間なのに、役職がゴブリンロード(課長)になってたのはウケる。

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