第6話 初めてのゲームセンター 2


「むぅ~惜しかったな明人。あのシエルとか言うプレイヤーただ者ではないぞ」


「そうだな。でも2回目でランキング3位に入れるなんて中々ないぞ?」


「それは我と明人のコンビが最強であるからな。次にやる時は1位を目指すぞ!」


 俺たちあの後の1回でスコアランキング3位に食い込む事が出来た。

 しかし、1、2位はシエルと言うプレイヤーがかなりの高スコアを叩き出しており、一歩及ばすという結果となってしまった。

 それでもお互いやりきった感はあり、2人で協力してランキングに載れたという達成感は大きなものだった。

 因みに俺たちはデュアルリベリオンという最高にイカした名前でランキングに登録しており、神宮寺の感性を大いに活かした命名と言えるだろう。


「他に何か気になるゲームはあるか?」


「あれをやってみたいぞ!」


 神宮寺は今いるシューティングゲームコーナーから少し離れたUFOキャッチャーのコーナーを指差した。


「UFOキャッチャーもやった事ないんだよな?」


「うむ!一度やってみたいと思っていたのだ。先ほどのガンシューティングゲーム?と同様に我の力を見せつけてやろうぞ!」


 いつもの事ながら自信満々な表情を決める神宮寺。

 そんな彼女と共に俺は欲しい景品が有るか各台を見て回った。

 ゆいぐるみやアニメのフィギュアなど魅力的な景品が多くあり、どれを狙うか中々決められない。

 知っているアニメの景品が置いてある台では、UFOキャッチャーそっちのけでオタクトークを始めてしまい、それはそれで有意義な時間だった。

 そんな中、彼女はある台で足を止めた。


「明人よ、黒ペンさんだ!黒ペンさんがいるぞ!」


「おっ!本当だな。しかも、結構デカメのぬいぐるみじゃん」


 景品の中から右目に眼帯を付けたふてぶてしい顔のペンギンがこちらを覗いていた。

 このずんぐりとしたペンギンは、断罪の黒騎士シリーズに登場するマスコット的キャラクターの黒ペンさんだ。

 本名をクロノ・ペンギルティと言い、通称黒ペンさんのあだ名で親しまれている。

 そのキャラクター性も然ることながら、ふてぶてしい顔が愛らしく、ファンの間でも広く愛されているキャラクターだ。


「明人!我はこの台に決めたぞ」


「デカメだし、結構難しいと思うぞ?」


「いや、それでも我はペンさんが欲しい!」


「分かった。この台でやってみようか」


 神宮寺がコイン投入口に100円を入れて、レバーを掴む。

 狙いは悪くないが、正攻法すぎるな。

 レバーの強度はそこまで弱くなさそうだが、このままプレイし続けると獲得までにかなりお金がかかりそうだ。

 俺は横から口を出そうかと考えたが、本人が初めてという事もあり、最初は自由にやらせてみようと考える。


「むむむ、取れる気がしないぞ。これはどうすれば良いのだ明人?」


 400円ほど使った後だろうか。

 神宮寺はびくともしない黒ペンさんに痺れを切らしたのか俺に頼ってきた。


「ちょっと俺にやらせてくれ」


 俺はそう言ってお金を投入する。

 狙うは黒ペンさんの中心──ではなく、黒ペンさんの本体を通り過ぎ、背中の何もない空間でアームを止めた。


「明人よ、それでは本体を掴めぬぞ?」


「まぁ見てろって」


 そのままボタンを押し、アームが開く。

 すると、降りていくアームの先がちょうど黒ペンさんの頭に突き刺さり、その反動でむにゅんと黒ペンさんが獲得口の方向に移動した。


「おぉ!」


「こういったでかいぬいぐるみは本体掴むんじゃなくて、アームの先で押し込むようにすると取りやすいんだ」


「そんな秘技があったとは!さすが我が盟友ぞ!」


「ちょっとしたテクニックだよ。後数回で取れると思うからやってみな」


 俺のアドバイスのもと、プレイを再開する神宮寺。

 追加で2回ほどプレイした後、彼女は黒ペンさんを獲得する事に成功した。


「やった!やったぞ明人!」


「良かったな神宮寺」


 神宮寺は景品口から黒ペンさんを取り出して数秒見つめあった後、両手で抱き抱えながら幸せそうな表情をした。

 幸せそうな彼女の顔を見ていてこちらも嬉しい気持ちになる。

 まさか自分の知識が活かされる場面が来るとは思ってもみなかった。

 案外ゲーマーというのも捨てたもんじゃないかもな。


「はぁ~ばりあいらしか~。大切にするけんね!」


 黒ペンさんを強く抱きしめながら満面の笑みをこちらに向ける少女。

 彼女は溢れる喜びを表情と言葉で表現した。

 それが自分の普段の口調を崩し、素の方言が出ているとは本人も気づいてないだろう。


 俺はそんな彼女を唯々微笑ましそうに見つめるのだった。


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