第2話 中二病との出会い 1


 中二病方言女子こと神宮寺花子とのファーストコンタクトはかなり衝撃的だった。


 あれは2ヶ月ほど前の話だ。

 高校2年に進級した俺は新しいクラスで友達が出来るのか、新しいクラスには可愛い子がいるのか期待と不安が入り交じった心境だった。


 その中で行われるクラス全体での自己紹介は最初の印象を決める上でも大切である。


 出席番号順で始まり、一言二言添えて自己紹介を終えるクラスメイト達。

 誰もがここでは個性を出さず、無難な挨拶を徹底しているように感じた。

 しかし、そんな流れは一人の少女によって断ち切られる事になる。


 その少女は可憐だった。小柄な体型とサラサラの黒髪ショート。大きな瞳が印象的で、顔だちも恐ろしく整っている。左右の瞳は青色と赤色で違っており、何ともミステリアスな雰囲気だと思った。

 誰もが彼女に注目し、誰もが息を飲んだであろう。

 そんな中彼女は自信ありげなポーズを決め、自己紹介を始めた。


「我は黄昏トワイライトより出ル者。仮の名を神宮寺じんぐうじと言う。ラグナロクを共にする同胞達よ!黎明れいめいの時が来た!我と共に厭世えんせいを断ち切るのだ!」


 教室の誰もが大きな口を空けポカーンとしている。

 かくいう俺も空いた口が塞がらずポカーンとしていた。

 どんな子かと期待していたが、期待の斜め上を通り越す勢いの衝撃だった。

 ミステリアスだと思っていたオッドアイも今では何となく『そっち系』のものに見えてしまって仕方がない。

 そう。彼女は美貌と度胸を兼ね備えた中二病だったのだ。


 数秒空いた後、まばらな拍手が発生する。俺も思い出したように拍手の波に便乗した。


葉月明人はずきあきとです。趣味はゲームとアニメ鑑賞。よろしくお願いします」


 その後の自己紹介は極めて普通だった。

 神宮寺さんの印象が強すぎて薄れてしまったのかもしれない。


 今年のクラスは面白くなりそうだ。俺はそう思うのだった。


 ****


「神宮寺さんってアニメとか好きなの?」


「すごい綺麗な瞳だね。それってカラコン?」


 自己紹介の後は凄かった。彼女の回りには人集ひとだかりが出来ていたのだ。

 それも不思議な事ではない。彼女にはそうさせるだけの魅力が備わっていたのだから。


「我も現し世の虚像は見るぞ。特に逢魔おうまときなる虚像を好んで見る」


「我の瞳が気になるか?これは超眼鏡メガネスーパーより手に入れたエクリプスの魔眼。危険故、触れるでないぞ?」


 しかし、彼女は自分を曲げなかった。最初はキャラ作りの為にわざと変な言葉遣いをしていると思っていたクラスメイトも途中から『ガチ』だと気がついた。


 だんだんと話かける人は減っていき、1ヵ月も経てば誰も彼女に話掛けなくなった。


 俺は勿体無いと思った。あんなに自分を曲げない奴はいないし、あんなに面白い奴もそうそういないだろう。

 興味本位であるが、一度話しかけてみるのも良いかもしれない。


 そんな風に考えている内に席替えの季節がやって来た。


 席替えとは学校に通う上で重大なイベントの一つである。

 仲の良い友達と近くの席になれるか、黒板から離れた後ろの席になれるか、はたまた可愛いあの娘の隣になれるか。

 そんなドキドキを味わえるものなのだ。


 どうやら席はくじ引きで決めるらしく、出席番号順にクジを引いていく事になった。


 クジの結果に一喜一憂するクラスメイト達。

 そんな彼らを尻目に俺はクジを掴む。

 小学生時代から何度も経験してきた席替えであるが、いつになってもこの瞬間は緊張するものだ。


「28番か......」


 俺はあらかじめ黒板に書かれた番号と自分の引いたクジの番号を照らし合わせる。


「おっ、後ろの方じゃん!」


 どうやら窓側の一番後ろの席を引き当てる事が出来たようだ。

 この場所は教師に刺されにくく、サボっていてもバレにくい。

 高校生ライフをエンジョイする上でこれ程最適な席もないだろう。


 後は隣の席が誰であるかが重要だ。

 俺はドキドキとした気分のまま新しい席に向かった。

 そこでふと声を掛けられる。


「汝が我の新しき隣人か。我の名は神宮寺!共にラグナロクを乗り越える仲間としてよろしく頼もう!」


 まさかと思った。

 こんな偶然があるのだろうか?

 自信ありげな顔で決めポーズを決める美少女。

 神宮寺花子が俺の隣の席に座っていたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る