幼馴染ムーブ




 美由のまさかの号泣。

 そして、人知れず抱いていた感情と本音。


 美由の事ならある程度知っていると思っていた俺にとって、それは結構衝撃だった。


 美世ちゃんと被らないように、自分の存在感を消さないように……演じてきたお姉さんキャラ。

 俺からしてみれば、美由と最初に出会った時からああいう感じだったし、それが美由の性格なんだと思っていた。


 けど、美由の口から零れた本音は……全然違っていた。


 結局、今の今まで胸に秘めた不安が一気に爆発して、俺は幸いにも美由の本当の思いを知る事が出来たわけだ。


 今まで以上の……最近の積極さに裏付けられた思い。

 聞けば聞くほど、その行動の意味が理解できた。そして、全く気が付かなかった自分にも……少し嫌悪感を抱く。


 だからこそ、今までの自分に対しての戒めも含めて……俺は美由にキスをした。それもここぞとばかりのディープキス。あとは、美由が望んだとおり、たわわなおっぱいにも手を触れた。


 これで、一件落着。そう思っていたんだけど……


「ねぇ空? 今日も一緒に寝て良い?」


 なんか思っていた方向とは違う気がする。


「えぇ? お姉ちゃんだけズルい!」

「じゃあ一緒に寝よう? 美世?」

「ちょっ、父さん達も居るだろ!」


 まずは、なぜか俺の呼び方が変わった。今まで学校でも家でも空くん呼びだったのに、なぜか呼び捨て。

 理由は分からない。ただ、思い当たる節はある。


『分かって無いな。世の中には同学年……近い所だと幼馴染ポジションってのがあってさ? 同じ目線で話して、笑って……俺と同じ雰囲気で居られるキャラも居るんだぞ?』


 そう、幼馴染ポジション。

 俺の知ってる浅はかな知識だと、一般的に幼馴染は互いの名前を呼び捨てで呼び合う。

 まぁ幼馴染でなくても、同学年なら当たり前のようにも感じるけど……長年お姉さんを演じていた美由にしてみれば、くん呼びからの脱却は大きな一歩な気がする。

 実際、呼び捨てで呼ばれた事に気が付いた時は……一瞬ドキッとしたもんだ。


 まぁそれを知ってか知らずか……そこは美由しか分からない部分だけど。


 あと、今の会話もそう。

 今まで何かをするにしても、たいていの場合美世ちゃんが同じことを望んだ時、余程の事がない限りは美由は譲っていた。俺がらみの事でもだ。


 さっきのパターンだと、


「ねぇ空? 今日も一緒に寝て良い?」

「えぇ? お姉ちゃんだけズルい!」

「もうしょうがないな。じゃあ今日は譲ってあげる」


 こういう感じが多い。流石に2連続で美世ちゃんがそんな事を言うと、曲げないけどさ? ここ数日は美由は譲らない……というより一緒に寝ようという、もう1つの選択肢を選んでいる。


 小さな変化だけど、前の美由から見ると大きくも感じる。


 それに学校でも、俺に対する話し方というか雰囲気が変わった気がする。

 今までは、少し上からの様な……私がしっかりしなくちゃオーラが出ていたけど、ここ数日は殆ど家と変わらない雰囲気だ。てか、むしろその距離感に危機感を覚える位。


 さすがに教室内でボディタッチまではいかないけど……結構危ない気もする。

 とはいえ……


「じゃあお風呂は入ろっか。美世」

「うんっ!」


 すっかりいつも通りになったし、一安心だよな。


「空も一緒に入る?」


 ……いや、正確には夜以外は一安心だな。




 ★




 日常的な雰囲気に変化はありつつも、別にそんな美由が嫌いになるとかそんな気はない。

 むしろ、これが美由の本当の姿なのだと知れて、ホッと安心した部分が大きかった。

 けど……


「すーすー」

「すやすや」


 夜に関しては、そうとも言い切れない。いや、正確には人目の付かない場所だろうか。


 屋上なんかにも良く来るようになって、桐生院先輩が居ればヨガ談話で女子会が始まる。

 ただ、居ない時は……


『ねぇ……空?』


 今まで見せたことのない上目遣いで、制服の袖をつかんであの裏手に連れて行かれると、


『少しだけでいいから……ねっ?』


 目を閉じてキスをねだるようになった。

 俺だって、最初はやんわり断ったさ? けど、


『少しだけ、1回だけ、軽くで良いから……ねっ?』


 そんな甘え声と、1度許してしまったという自身の過ちのせいで……


『仕方ない……少しだけだぞ』

『うんっ! チュッ』


 結局、断れずにいる。

 そして、特に顕著なのが夜だ。そう、今この時間。


 ……美由?


 同じく美世ちゃんが寝ているというのに、気が付けば裸状態。布団に入るまではパジャマを着ていたはずなのに、いつの間にかこうなっているイリュージョン。おそらく俺が寝てからなんだろうけど、やっぱり裸というのはヤバい。


 直に触れる肌に、感じる体温はやっぱり慣れるもんじゃない。けど、美由の場合……これは序章にしか過ぎない。


 ……って、やっぱ片方の手が太ももに触れてる。なんか段々と、テント部分に近付いてないか?

 しかも、俺の右手どこに持っていってんだよ! 腕はいつも以上におっぱいに挟んでるし、なんか本体もわざと体に触れさせてね? なんか指先に変なものが……


「んっ……」


 これ、位置的におへそ? しかも若干動かしたときの反応……まさかっ!


「美由……お前起きてないか?」

「すーすー」


 無反応? いや、もう1度触ってみよう。


「あっ……すっ、すーすー」


 いや、腹部が動いてるぞ! こいつ……


「寝たふり止めろ。知ってるぞ?」

「てへっ、バレたか」


 ったく。


「んで? 寝たふりして、俺の右手どうするつもりだ?」

「別に何でもないよ? ただ、私が感じてたいだけだから」


「何言ってんだよ。今まで散々触ってただろ?」

「馬鹿だなぁ。私が触るだけじゃダメなんだよ? 空にも私を感じてもらわないと」


「なっ、何言ってんだよ」

「この位置じゃ、おっぱいは触れないけど……私の体にならどこでも触れるでしょ?    本当は下まで……」


「ん? 下?」

「なっ、何でもないよ? でも、空にも私触っててほしいから、腕も右手も密着させてる。ダメ?」


「いっ、いやダメじゃないけど……」

「良かった。空?」


「ん? なん……っ!」

「んっ……んんっ……ぷはっ……」


「ばっ、バカ。隣に……」

「おやすみ空」


 なっ、やるだけやって寝やがった!? 

 ったく、どんどん積極的というか……目に見えて甘える感じになってきたぞ?


 けど、正直美由のあんな顔はもう見たくない。それが無くなるんだったら、いいのかな?


 ……ん? あれ? なんか指先に髪の毛みたいな感触が……布団の糸くずかな? まっ、気にせずとりあえずは……寝る事に集中しよう。



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