02 目が覚めたら…たぶん異世界でした。



私は目を覚ました。

驚くほどフカフカのベッドに寝かされていた。

体を起こして、見渡せば、教育テレビで見るようなヨーロッパ調の…フランスの宮殿の一室のようだった。大きな窓からは手入れされた庭が見え、バラが咲き乱れている。嫁さんがうちの猫の額のような庭にバラを植えて、奮発したと、言っていたが、それ以上の豪華な花が咲いている。しかも、近くに建物が程の広い庭に溢れんばかりに植えられている。どれだけ奮発すればいいのだろうかと、金勘定をしてみる私は元企画営業だ。なんでも金勘定してしまう悪い癖だ。

部屋は驚くほど広く、飾られている調度品も高級で高そうだが、ただ、見るからにキラキラ輝く装飾品。ピラピラのレースをたくさん使った飾りつけ…。貴族のような…。


貴族…貴族?

私は気絶する前のことを思い出す。

長年務めていた会社で定年を迎えた今月60歳を迎えた日本人、佐藤辰雄…そして、その記憶と絡み合うように、ヴィス国 シュガード公爵家、嫡子である、タジオ・シュガード…。


私はフカクカのベッドから勢いよく降りて、体がすごく軽く動くことに驚きつつ、大きな姿見の前に立つ。


…あ、ものすごい美少年がいる。


鏡の前に、ポカンと口を開けたがいた。

歳の見た目は16歳前後、タジオの記憶だと16歳の少年だ。だが今の中身は、孫もいる60歳のおじいさん。元の人、タジオは今までの記憶を残して、私の中に吸収されて居なくなってしまった。

明るい金色の髪は緩やかな巻き毛、肩につくかつかない位の長さ。日の光を浴びてキラキラしている。鼻筋はスッとして、くっきりとした二重が印象的な大きめの目。瞳の色は青というよりも緑がかった青色に中心が金色の輝きを持った瞳。ぷっくりとしたピンク色の唇。金色の驚くように長いバサバサのまつ毛と眉毛もキラキラ輝いている。

透き通るような真っ白い肌。シミなんてない。ハリがすごくて、水なんてパンパン弾くだろう。なによりも、あんなに老眼に悩まされてきた視力は、はっきりと、手の毛穴まで見える。

うん、これはすごい。


これはもう、すでに50代半ばになった、元オタクの妹が耽美だの、美少年と騒いでいた、あの映画の少年のようだ。名前がタジオだし。それ以上かもしれない。

まさに神が造った最高傑作の美だ。


ペタペタと顔を触れば、その感覚があるのでやっぱり自分の顔なのだ。

この顔が自分の顔。





私は確かに暴走車にひかれて死んだ。

だが、ここの感触はあまりにも現実的だ。

しかもこの少年の生きてきた記憶、はっきりとある。






今の私はヴィス国 シュガード公爵家、嫡子である、タジオ・シュガード、16歳。




「ううううぅううーーー」

私はその場にガクリと崩れ落ち、唸り声をあげた。

そして頭を整理する。


これは夢なんかじゃない。

私は違う世界に飛ばされて、その勢いでこの美少年のタジオの体を乗っ取ってしまった。

これは、私が若い頃夢中で読みふけった、『筒井』や『眉村』などの作家の空想科学小説世界、SFの世界だ。


ここは私がいた地球とは別の次元の世界。


異次元世界では?

テレポートや過去にタイムトラベルしたわけではない。ヴィス国なんて国は知らない。

ここはたぶん、異世界。



私はたぶん異世界転生した。







つづく







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