第35話

*『黒騎士』の悪戯*



 ––––ギャアアアアアア



 真夜中、帝都にて、シンとした宮殿に男の叫び声が聞こえた。

 しばらくして騎士達の

 どうされました⁉︎

 お怪我は⁉︎

 黒騎士は⁉︎

 などという彼らの声がここまで聞こえた。

 ––––どんな声量してんだ…お前ら

 おっさんだろ…

 と、ほぼ同じ年代であろう男が、イライラしながら溜まった書類を見ていく。

 というのも、この宮殿。

 王座を中心として、東西南北の棟が立っている。男がいるのは北棟。

 叫んだ側はおそらく南でここまで行くのにも、20分近くかかる。

 だから、大抵魔導機––––魔石という魔法の力を込めた石を埋め込まれた一人用の空陸両用の車、を皆使用している。


 そしてこの騒動ここ最近ずっとあることであった。

 そんな騒動などお構いなく無駄に豪華で見飽きたこの部屋で処理を進める男––––この帝都の宰相、リゼ・ローゼンベルグ。

 

 連日の騒動の内容は全て、黒備えの騎士が夜な夜な動くという怪奇現象であった。

 大昔、騎士団創設時、黒だった。

 そこから灰色、白となり現在の騎士団の甲冑は銀色。


 そう言うことで、亡霊だの、魔族だの、下々の噂になっている。





 ある程度仕事が終わり、向こうの騒動もおさまった頃。


 ガシャガシャと、

 廊下から音が聞こえてきた。

 

 またか

 と、思いながら扉の向こうにいるここの護衛一人とその騒動調査中の騎士のだろう。

 ご苦労な

 と、思いながら会話を内から聞く。



 「こちらの黒備えの鎧は…?」

 

 「特に動いてないでしょう。動いておれば声が聞こえるはずかと」と、ここの守衛が。「失礼した」と、少しの会話があってから、騎士は去ったようだ。

 この部屋の廊下に一つだけ飾りとして黒備えの鎧が置いてある。

 中々いい

 と、商人から買ったレプリカだが。本物は、美術館か宝物館にあるらしい。





 そして、その騎士が去ったのを音で確認して扉の向こうにいる護衛の騎士に分かるように伝える。



 「おう、入れよ」


 「は、失礼します」と、ドアは開けたままに一言。


 「もう、彼ら来ませんよ

 ご安心を」と、その女騎士が言う。



 彼女一応世間体的にローゼンベルグ姓を名乗っているが、この帝都を築いたとされる竜–––忌竜。

 帝国の各街で、嫌な事を除いてくれる、守ってくれる神として崇められている。そう伝えた時、


 そ、そんな…私など……

 と、照れていた。

 本当の能力は強力なバリアで守れるもので、帝都を常に守っている。

 他の街はその祀る場に、彼女の魔石を置いている。



 そんな彼女が今一度、

 「大丈夫ですよ。もう彼らは来ないので」と、リゼに言うわけでもなく言う。

 開けっぱなしの扉の向こうの黒騎士が動いた。


 


 「イタズラもとうとう命までかけるとは思わなかった」と、独り言を言いながら兜を脱ぐ。

 くすんだ黄色の髪が落ちる。


 「アナスタシア様、そろそろ騒動はお辞めになった方が身のためかと」

 と、竜が諌める。

 「わかった」と、その男アナスタシアが残念そうに言う。


 改まってから、リゼに向かって、

 「本当に教会を裏切るのですか?

 同盟を結ぶのはとてもありがたいですが、

 大丈夫ですか?」と、アナスタシア。


 教会は、この帝都の斜め上に浮かぶ島にあった。裏切りも困るので、そういう意味で確認をアナスタシアはしていた。



 「おう、もうやることはやったしな

 最近魔石なしでの機器開発したみたいでな

海の者たちとの連携のおかげか。

 とにかく、俺もこいつも引退かなって」と、目の前の宰相が言う。


 この二人、『契約』と言うものを交わしている。人と竜のみが可能で、交わすと人が魔法を使える様になり、長寿になる。

 別れは『契約』の破棄か、どちらかが死ねば共に。

 一長一短あるものであった。


 だから、「契約を破棄されてください」とか「やだ」とか夫婦漫才じみたものを眺めていた。

 そんな二人を眺めて「わかったわかった」と伝えその痴話喧嘩に呆れてアナスタシアは「もう帰る」と伝えた。

 ついでにドアにびっくり箱的なものを設置しておいた。足元に設置した紐にあたると兜、鎧のレプリカが落ちるやつを。




 ––––ダメだと言われたらもうやるしかないな…

 結果が見られないのは残念だがな

 と、アナスタシアは我がの悪戯に満足した様子で、

 「では、また」と、多分聞いていない宰相に伝えて霞む陽に消えた。

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