第31話 


*海中の天使の階段*



「ナーシャ!! こっち、こっち!」


 嬉しそうに浜辺を先行し、ゆっくり歩く兄のアナスタシアに手を振る。

 今日は弟イザベラ——エリザベートを救ってくれた人魚たちのいる海底の国へ行くと二人で決めていた。


 アナスタシアへは、

「泡で息吸えて」「その中にも街があって」「人魚さんがいて」「お姫様がいて」

 と、その海底の国紹介していた。一度記憶喪失になってからイザベラは若干幼児後退しているようで、戻った今でもたまにそれが出る。


 子供と会話してるみたいだ

 と、アナスタシアは聞きながら思う。


 少しばかり飛んで海上を進むと浮き輪があった。それが目印。

 交流のある船乗りのみが付けるブレスレットに反応して海底へ泡が空気と共に運んでいく…

 イザベラは例外なのか彼自身が行くだけで大きな泡が出てきた。


 聞いてはいたが、すごいな

 とアナスタシア。


 まるで隠れ家を紹介するようにキラキラした目で「でしょ⁉︎」と言い「またあそこが……」と、指差すイザベラ。そんなこんなでまったり観光気分でいると


 『今日はこちらへ』

 と、何処からか声が聞こえてその泡は下へは行かず、そのまま横へ向かって行った。

 

 二人して⁉︎と驚きながら

「まあ悪いようにはされないだろ」

 と、楽観的。

 

 その移動中、中々海の中を進むことはないから、二人座ってその景色を眺めた。

 横でイザベラが、「ああ!お魚さん!」「あれは、魔物?」「見て、ナーシャ‼︎鯨さん‼︎」

 と、はしゃぐ。


「エリザ…おまえさ

 知識あるのかばかなのかわからん」

 と、それを眺めるアナスタシア。

 「ひどいなー」と笑う。

 

 

 ようやく見えて来たそれは、泡姫の様な和風な竜宮城とは異なっていた。


 どちらかというと西洋の城に形は近いが、屋根部分は捻れ、全て深緑色に包まれていた。

 街もまた緑で、見る者によっては背筋が凍るような光景。海中の浮遊を利用したり、機械を利用しているようだ。


 どの建物も鉄かまた別の物体のもの。


 人間たちがみれば、海の中を知らない者が見れば、理解し難い物ばかりで少し精神に来るかもしれない。


 海の者たちは魔石を嫌うから機械の技術が発展しているとは聞いたが、

 

 ここまでとは……

 と、アナスタシアはイザベラから聞いた泡姫の所以上に機械が動いていることに驚いた。


 幾何学模様の一番大きな建物へと泡は行き、扉が勝手に開いた。少し上がると空気のある空間に出。そこに着地し、泡が弾けた。


 イザベラは何ともないようだが、アナスタシアは若干酔ってしまい、


「少し座る」と言って手頃な段差を見つけ、

 ふう

 と息を吐いた。


 隣を見ると、狛犬のような像が。

 しかし見た目がタコの頭に獅子の様な体とそれに似合わずヒレが生えている。

 ヌメリがあり、像が動き出しそうで


 見るやつによっちゃ気狂うんじゃ

 と、アナスタシアが思いながら、更に少し周りを見渡すと、神社の狛犬のように、それが等間隔で置かれていた。狛犬たちが見る中央には黒く光る石が敷き詰められている。

 その奥、二人が来た入り口とは逆の所に神社の前部分だけが出て壁に張り付いていた。


 ただでさえ気分悪いのに

 悪趣味な像だな

 と、アナスタシアは思った。


 対するイザベラは、

「イザベラのとことは違うね!」

 と、気持ち悪さより持ち前の好奇心が勝った様。


「羨ましいな、エリザ…」

 像見て気分悪くなり、下を向く。と、何かと目線が合う。


「ああ⁉︎」

 と、アナスタシアが驚き、弟は「あ、これガラスなんだね!」と、嬉しがる。

 向こうの魚人たちに手を振る。

 向こうも返してきた。


「呑気な

 覗き放題だな…」と、呟く。

 

 

 しばらくして、石畳の先、神社から蛇のようなものが波打つ様に蛇行して来。


「初めまして、お噂はかねがね

 私がこの海底都市の主…皆波姫と言います

 そうですね

 ナミとでもお呼びください」

 と、この海底の国の主、波姫…竜が現れた。


 イザベラには

「その節は

 災難でしたね」

 と、まるで母親のように接する。アナスタシアには


「もし今後私がご入用でしたら呼べば参りますよ」

 と、「一緒に戦って欲しい」とアナスタシアが言う前にそう答えた。

「なんだ、知っていたのか」


「噂が波に乗って来ますので」と笑う。


「さ、この建物ですと、呼吸はちゃんとできますので今日はゆっくりお休みください」

 と、案内する。


 

 

 

 

「他所の都市とも交流があるけど、地上と交流あるのは泡姫の所のみ……今後どうなるかは、わかりませんがね」


「そうなんだ…」と、寂しそうに言うイザベラ。


「そうです

 イザベラ

 でも理由があって

 他は泡のように呼吸できる機能がないからできないのと、過去の魚人への迫害があるから怖いだけです」


「今回こちらへはラジャーナの手助けがあったから………ですか」と、アナスタシア。


「まあ今はわからないですし、魚人たちも外が気になってはいるので、いつかは交流したいですね」


「じゃあ、ぼくらが安心できるようにしてあげないとね」と、イザベラがニコッとする。

 それにつられて波の竜は微笑む。


「ああ、そうでした、私たちの技術は魔石がいらないので…

地上に行き渡ればあなたが思う未来を作れますよ」

 と、アナスタシアを見る。


「それなら良いな…

 ちゃんと宣伝しとくので、あなたも同胞の説得をお願いしますよ」と、アナスタシア。


「ええ。もちろん

 頑張ります」と、波姫。


「ああ、こちらです。

 ここは明るく水圧もあまりないので

 では、詳しくはまた明日

 ゆっくりおやすみなさい」

 と、扉を閉める。


 この部屋はスイートルームの様に広く、先程の入り口よりかなり明るい。どうやら天窓の様なものが付いているらしい。


 窓も外の海底の色とりどりの珊瑚礁。それを見て、

「ここだけでもずっといれそう」

 と、イザベラが呟く。


「ナーシャ見て〜、綺麗‼︎」と、二人して見上げると海中へ光の梯子が降りていた。




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