第20話





 馬車で数日。

 やっと関所が見え、何度かその中での入国許可処理を終えてとうとう門をくぐる。

 ここに来るまで幾つか街には寄ったが、同じ国とはいえ都。また違う驚き興奮を隠せなかったイザベラ。

 子供の様に窓に張り付く弟のイザベラ――エリザベートに苦笑して、

「ほら、やめろ」と、アナスタシア。

(記憶喪失の後遺症かなんなのか、少し幼児後退しているな……

 まあ、俺も似たようなものか。

 それに旅行なんて昔から一回も行かなかったし、分からんでもない。途中で街には寄ったが……ただ泊まっただけだし。今度どこか行ってみようか)

 と思いながら椅子に座らせる。

「だって……」と、アナスタシアと同じ気持ちらしいイザベラが指を咥えて駄々を捏ねた。

「終わったら……始まる前でも良い。観光でもしたいな」

「! あ! そうだね!!」

 と兄な自分と同じ気持ちだということを察してにっこりするイザベラ。


 二人の故郷ほど大きな石ではないが、浮遊の魔石の上に見た目はまるで氷の城のような建物がそびえ立つ。

 それはまだ遠く空にあると言うのに、存在感があり、既にこちらを見られている気さえした。


「あれが、教会か」

 それをみて、アナスタシアが呟いた。

 

「でもその式典は下の帝都でやるってこの紙渡してきたとき学長が言ってたよ」

 

 と鞄からゴソゴソと取り出す。そういえば、とイザベラが、

 

「あ、着替えるの、後でで良いよね?」と聞いた。

「あ、ああ……」

 

 とお互い見やる。それは天使族特有の地上の文化をごちゃごちゃにしたもの。中華服みたいな見方によっては和服にも見える。西洋軍服の様な服。

 

「宿泊施設に今から行って、明日式典で、次の日はなんかお偉さんとお話で……」

 

 と、アナスタシアが「先にちょっと街に出て観光するか」と言う息抜きの提案を被せ指折り予定確認していく弟イザベラ。

 見られているのに気がつきハッとして、

 

「え? 何? ナーシャ?」

「大変だな。おまえも。記憶失ったり海賊行ったりな」

「そんでもってこれだから嫌だよ。なんで僕なの?」

「ま、いいじゃないか。今度聞かせろよ」

「え? 言わなかったっけ?」

「あれはさらっとだろ?」

「うーーん……。わかった!」

 

 最初は渋ったイザベラも兄が知りたいという言葉に嬉しくなり、快諾。

 そうこうしているうちに予約していたホテルに着く。教会側が一応用意はしていたが二人とも使う気になれず学長に聞きながら自分らで予約した。どうやら良いホテルを調べ、資金も学長が出してくれたらしく、最上階とまではいかないが、寝室とちょっとしたテーブル。靴を脱いで畳の部屋。和洋折衷な雰囲気。

 外が羨望出来、陽が落ちる中。街頭やビル街が輝き始めていた。

 

「わあぁ……!」と案の定イザベラがはしゃぎ、アナスタシアはルームサービスを見ては「お酒……」と呟く。

 

 落ち着くと二人はそれぞれのベッドでふあーーと横になる。と、急にイザベラが、

 

「第一話!!」

「……? な、どうしたんだ?」

「えっと、長くなるからちょくちょく出して行こうと思って……」

「で、それが今か?」

うう……と唸るが、「明日まで暇でしょ? ……で、ね? 僕海に落ちっぽくて、人魚さんに助けて貰ったんだよね。……すぐ下がホントによかったよ〜。あの時は多分意識もなかったから海のお城は見えなかったんだよね。

 えっと、あそこの竜は泡姫だったかなぁ? とにかく目覚めてから見た事ないものばっかで、記憶ぶっ飛んでても凄かったなぁ。

 まず街が泡で包まれてて、僕も泡の中だったんだよ?! 泡の部屋!

 で、僕も珍しい機械がいっぱい繋がってて、魔道機……でも魔石は使ってないって言ってたからすごいよね」


 それまでのことを語りに語り、イザベラが砂漠地帯付近の寄船したと話した時「その砂漠地帯には言ったなぁ……」とアナスタシアが間に挟む。

 

「一緒に行けたらいいね!」

 

 そう話して計画を立てて、しっかり寝落ちした。

 そんなほっこり気分のまま、イザベラは式を迎えた。そのため意外にも緊張せずふわふわ気分で挑んでしまった事に後々マズいとだけ思い、帝国及び教会への旅が終わった。

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