順番狂えば依頼無し
え?
フィンクってえ異人の冒険者について聞きたいって?
あんたまた、珍しい事お聞きなさるんだねえ。小話のネタにするなら他にもいるだろうに、ミウラ白刃隊の三浦様や小嵐三姉妹とか。あんなのはごくごく平凡な、何処にでもいるようなフツーの冒険者でございますよ?
まあ、大陸から流れて来た異人さんってんだ。顔は変わってるし、髪も黒髪じゃねえ茶髪てえ風体ですがね。
え? 女にモテるのかって?
いやいや、あっはっは、フィンクは手当たり次第ってえわけじゃあねえが、気になった女を見つけちゃあ告白して、それこそ軽く二十人に振られてんじゃあないかねえ!
まあ、異人だしあの間の抜けた顔じゃあ大概の娘っ子はごめんなさいってなもんで。
ええ?
このあいだ?
娘っ子二人がフィンクを取り合ってたって!?
あっはっは、冗談言っちゃあいけねえやお客さん。
まあ、根っこはいいやつだし、あれでいて優しいところがあるからな。鶯の止まり木亭の娘っ子どもにゃあそれなりに好かれてるみてえだが。惚れた腫っただってえ話は聞いたこたあねえですよ!
おや、もうお行きなさるんで?
へえ、へえ、まいど。お団子一皿に茶一杯で六文になりやす。
へえへえ、毎度まいど。
五本木町は本宿は温泉町になりますからねえ、温泉入りたいならお間違ぇなされねえようお気をつけなさい。
ええ、ええ、毎度どうも、へぇへぇ。道中お気をつけなすって。
「はい、次の方!」
屯所の玄関口を潜りゃあちょいと広い土間がありやしてね。
土間から床に上がる真正面に番台がありやして、その番台に冒険者に
さてさて、朝イチで来るつもりがとんだ喧嘩で番狂わせってもんで割と待たされちまった。
ようやく順番が回ってくらあ左腕にアゾット様が絡みついてる有様で、まあ白い目で見てくる黒野様の視線が痛えいてえ。
「へいへい、フィンクでござんす。今日のお勤めをば」
「ああ、フィンクさん。あなたでしたか。でもね。今日はね」
「へいへい!」
「あー、まあ、あなた向けの御依頼は全部配り終えてしまいましたねえ」
「え・・・そうなんでごぜえますか?」
「そうなんでございますよ?」
「そこを何とか、」
「つ ぎ の か たー!!」
「ちょーっ、ちょちょちょっ!?」
ばっさり切られそうになって慌てて追い縋ると、めちゃくちゃ迷惑そうに見上げてこられる。
「何です! 忙しいんですよこう見えてあたくしも!」
「わかっとりやす、すぐ! すぐでごぜえますから!」
「はぁ、まったく。それで」察したように一度追い返したらしい小太郎を見る「一体全体何の用があるって言うんですか」
「へぇ、へぇ、実はここの小太郎なんですがね?」
「それよりその左腕に巻き付いてる人形を何とかなさい」
「小太郎の事なんですが」
「全く。女にモテないからって
「冒険者登録をでござんすな」
「まったく!恥を知りなさい全く!」
御依頼配りで外の喧騒を無視してたせいでアゾットさんを知らねえ黒野様にぎゅっと俺の左腕に絡みついてたアゾットさんが唐突に頭を動かして目を見開いて満面の笑みを浮かべてくださりやがりました。
「痴れ者め、恥を知るのは其方の方じゃぞ!」
「ひゃあー!? に、人形が動いた!喋ったー!?」と仰け反るもすぐに持ち直して居住まい正し「びっくりするじゃあありませんか! 腹話術なんてこんな所で披露しなくても宜しい!」
「誰が腹話術じゃ誰が」
俺の腕から離れると番台に両手を突いてじぃっと睨むアゾット様。
ひいっと再び仰け反る黒野様。
ちょいと、アゾットさん、可哀想だからあんま虐めないであげとくんなさい。
「のう? 平凡な侍よ。妾のような超絶美少女を前にして人形とは畏れ多いのう」
「ひゃー!? ののの、呪いのお人形様でございますかー!?」
「たわけ! 妾は由緒正しき魔力の結晶生命体、万能なるマナの塊! 賢者の、」
「冒険者登録をば! お願ぇしてえんでございますよ! 小太郎の面倒は俺が見るってもんで!?」
危ねえあぶねえ!
賢者の石ってなあ全属性の魔法が使えるようになるってえ伝説級の魔道具だ。ホイホイ広められっちゃあまたぞろ誰かに狙われるかも知れねえってのに、錬金術師ギルドで裏切られて売り飛ばされたって自分で宣ってなかったかい!?
思い切り割り込んで言葉を中断させると殺意の籠った目ぇで睨みつけてきた。
アゾットさん、俺のフォローに感謝して欲しいものでごぜぇますよ。
話を遮られてどうにか我を取り戻した黒野様が、何やら縦長の木札を番台の下から取り出して俺の方に放ってきやがった。
「何だって良いから! 登録するならそこに氏名を書いて明日提出に来なさい! 今日はあたしだって忙しいんですからね、さっさとお帰りなさい! シッシッ!!」
帰れ帰れって右手を振ってきやがった。
ああ、今日は
一日仕事にあぶれるだけで、懐には痛手なんだけどなあ。
ともかく、アゾットの余計な奇行のおかげでビビりまくった黒野様に屯所を追い出されて、門へと続く石畳の道の上で俺は肩を落としたもんさ。
小太郎は何やら嬉しいやら申し訳ねえやらってえ顔で俺に丁寧にお辞儀をして来た。
「ご迷惑をおかけしてすみません、先輩。ですが、これで先輩と
んー。
まあ、そうなるのかねえ。
「ああ、まあ、そうかもなあ。とりあえず、今日は宿に帰ってその木版に氏名を書いて、また明日の朝にでも屯所に来るとするかい」
「はい、よろしくお願いします、先輩!」
うんうん。元気が宜しい。
俺もこんなイケメンに生まれて来たかったなあ。
げんなりして帰り道に着くと、アゾットの奴はやり切ったってえ、やっつけてやったぜみてえな満足げな笑みを浮かべて上機嫌だった。
いやいや、あんま与力と揉めねえでおくんなせえ。
こっちの仕事が減っちまうかもしれねえってのに。
はぁ・・・。御依頼無しって言やあお冬ちゃんに叱られそうだなあ。
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