モテなきゃ女にゃしばかれる

 ええ、まずね。

 女の子は怒らせちゃあいけやせん。

 冗談でも言って良いことといけないことがあるって事でごぜえますよ。

 でもな?

 アゾットさんとは昨日今日あったばかりの間柄。彼氏彼女だ恋人だってのとは違うわけでございやして。

 ましてや「妾を所有するがよい」なんて笑顔で言われたところでだよ。等身大の生きてるお人形様にだよ。所有してますなんでだよ。それこそ世間様に広められっちゃあ俺の人生そこで終了でごぜぇやす。

 まあ、だもんで、適度に距離を置いてもらおうって赤の他人じゃねえのって言ったら最後ってなもんで。


「追いついたー!!」

「ぎゃー!?」


 屯所まであと一歩ってえ所でアゾットさんに追いつかれて背中にドロップキックが直撃。盛大にすっ転がりながら屯所の門を潜りゃあそこには三人娘の剣士様。

 舞い踊る鶴亭っていう俺が住み込みさしてもらってる宿とは別の冒険者の宿の一番の手だれだってえ噂の美人三姉妹の足元にごろごろっと、


「は?」

「え?」

「なに?」


 薄黒の着物に真っ黒な袴姿の二刀差しの三姉妹の股座からお胸を見上げる形でへたり込んじまって、まあだらしねえ面で見上げちまったんだが。

 薄黒い着物に黒袴が映えるこれまた黒髪ポニーテールの真ん中の子を見上げちまって、袴の股座ってこうして見上げると、こう、妙にエッチいな。お胸の膨らみも立派立派。ああコイツァ天国か?


「きゃー、痴漢ー!!」


 なんて見惚れてる場合じゃあなかった・・・。

 ドゲシゲシゲシと丈夫な旅草履履きの右足で顔を蹴るわ肩を蹴るわ蹴るわ。


「ひいい、ちょっ誤解にごぜえやす誤解にごぜぇやす!」

「何が誤解なのですかエッチ痴漢変態!!」


 ああイタタタタ、あ、でも、なんか美女に蹴られるってちょっと気持ちいい?


「お姉さまお姉さま、そんなんじゃあコイツ反省しないよ」

「大事な妹に何をしてくれているのかしらこのボンクラは」


 ドドゲゲシゲシゲシ。

 あいたた、あ、これはちょっと洒落にならねえ。


「い、痛え痛え、ちょっと! 勘弁しておくんなせえ!?」


「変態エッチばかあ!!」


 どっかーん、と、真ん中のポニテの娘の本気蹴りでなんと屯所の壁まで蹴り飛ばされちまった。

 背中を強かに打ってちょいと息が詰まる。

 と、アゾットさんが駆け寄って来てギュッと俺を抱きしめてくれた。


「お前さまー!?」ギッと三姉妹を睨む「お主ら! 妾の夫になんて事してくれるんじゃ!!」


「私たちの足元に転がり込んで破廉恥に見上げて来て、何を言うのです!?」


「妾が蹴り飛ばした先にお主らがおっただけじゃろうが、半人前のちんちくりん!」


「ちっ!? そもそもあなた達はどういった間柄なのです!」


「嫁と夫じゃ!」


 うん。屯所の中の空気が凍った。

 他にも十何人の袴着の冒険者どもが居ったが、それまで無関心だった奴らが一斉にこっちを見やがる。


「ふぃ、フィンクに嫁じゃと・・・?」

「あんな別嬪さんが?」

「本当かのう」

「あいやしかし、あの様子はしかし・・・」

「俺の方が絶対にいい男のはずだ!」


 やんややんや。

 みんなで好き勝手言いやがって全く。

 あ、でも、人形のはずなのになんだかアゾットに抱き締められてるのってなんだか気持ちがいい。


「いつまでそうしているおつもりですか!」


 バッとポニテの娘が縮地っていうらしい高速歩法で数メートルの距離を一気に詰めて手刀抜きを突き放って来た。

 アゾットは咄嗟に両手を前に出して方膝立ちしながらそれを打ち払いざまに受け止めてしばし睨み合う。

 で、俺はアゾットさんのお膝から土間に転げ落ちた。


「ふんぎゃっ」


 痛い・・・。

 そして睨み合う二人の女の子。


「ほほう。良い踏み込みじゃ。お主・・・本当に人間か?」

「私もあなたに確認しておきたい。嫁だというのは何の冗談ですか?」

「おう、赤の他人が割り込んで良い話ではないとおもうがのう?」


 んーと・・・どういう状況だろう。ポニテの娘は何でアゾットさんと睨み合ってんだ?

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