第38話 魔女パトリシア

 パトリシアに連れられ、四人は「魔女」の屋敷へと案内された。


「……こりゃ、しんどそうだね……」


 デイヴィッドの様子を見るなり、パトリシアは眉根を寄せる。

 額にかかった金髪をかきあげて顔を確認し、更に表情を曇らせた。


「どうしよう……」

「休む場所なら用意してやれるけど、『きず』は精神的なもんだ。……自分で克服するしかないね」


 泣き出しそうなセレナの頭をポンポンと叩き、パトリシアはディアナの方に語りかける。


「そこのベッドにでも寝かしておきな。眠るだけでも、多少は慰めになるだろうよ」

「……わかった」


 ディアナは目を伏せつつ、ぐったりとしたデイヴィッドをベッドの上へと運ぶ。


「あんたはそこで待っときな。傷の具合なら、後で診てやるから」

「お、おう……」


 ランドルフは緊張した面持ちで頷き、ディアナに運ばれる親友を心配そうに見送った。


「僕は、君が『スチュアート家』のためにセレナ様を利用した可能性も考えていたけど……どうやら、違うみたいだね」


 サイラスは先程とは打って変わり、砕けた口調でパトリシアに語りかける。

 穏やかな笑顔とは裏腹に、その眼には相手への牽制けんせいが隠されることもなく輝いていた。


「……はっ、バカバカしい。誰があんな家のために骨を折るかってんだ」

「そうなると……君も、『離脱組』かな?」

「ああ、そうだよ。兄さん、あんたが家を出た後に続いたんだ」


 パトリシアは苦虫を噛み潰したように、言葉を続ける。


「あんたが獣のエサになったって聞かされたからね。必死で祖母ばあさんに『逃げるのを助けてくれ』って頼み込んだんだ。……あの人、孫には優しかっただろ」

「……そうだね。合点がてんはいった」


 サイラスは静かに頷き、それ以上追及しなかった。


「……そっか。『魔女』さんは、スチュアートの人だったんだ」


 セレナの呟きに、パトリシアは吐き捨てるようにして答える。


「隠しててごめん、なんて言う気は無いよ。あたしはスチュアートの者なんかじゃない。あたしは、あたしだ」

「……! ごめん。ボク、いっつも魔女さんを怒らせてばっかだね」


 いつになくしおらしい態度のセレナに、パトリシアはばつの悪そうな顔をし、大きくため息をついた。


「……。そんなこといちいち気にするなって言ったろう。あたしは人より怒りっぽいんだ」


 セレナの頭をぽんぽんと撫でてから、パトリシアは再び大人たちの方に顔を向ける。


「あたしは赤い髪で産まれたもんで、やれ不吉だやれ凶兆だと、両親や親戚から酷い目に遭わされ続けてた。おかげでこの通り。醜い面になっちまった」


 顔のあざを見せつけるようにして、パトリシアは赤い髪をかきあげた。


「……誰が呼んだか知らないが、『魔女』と呼ばれてるのには違いない。尻尾を巻いて逃げ帰るなら、今のうちだよ」


 妖しげな笑みを浮かべ、「魔女」パトリシアは挑発するように言い放つ。


「その子にからだを与えてやるくらいの、力はあるんだからねぇ」


 痣の中、サイラスと似た蒼い瞳が煌々と輝いていた。

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