少年少女期(3)

 おばあさんによると、三人の窮地を、座敷童が教えてくれたらしい。

「座敷童なんぞ、久しく見ていなかったけれどね。いつの間にか店頭に現れたと思ったら、『あの子たちが大変なの』って。それで駆けつけたってわけさ。まさか、神様の力があそこまで弱っているとは…」

 三人は境内のベンチに座らされていた。おばあさんは、お札の確認に向かう。稲荷像の下、手水舎の柱、そして社の裏。

「あの札は誰が書いたんだい?」

 怪訝な表情で戻ってくる。

「私です。三枚とも、切れたり濡れたりでだめになっちゃって…。ごめんなさい」

 怒られると思ったのか、ミサが消え入りそうな声で言う。

「あんたが書いたのかい?」

 おばあさんの目が見開かれる。ツトムやキヨヒコも口添えしながら、ミサは、お札を作り直した経緯を説明した。

「まさか、小学生が――。しかも、宿題のプリントと炭で」

 おばあさんは驚愕で震えているようだった。

「あの、やっぱり、効果なんて無いですよね」

 ミサが恐る恐る尋ねる。おばあさんは首を振った。

「逆だよ。私の作ったものよりも、お札の力が強い。いったいどういうことかね」

 そのまま、おばあさんは何かに気付いたように、境内の中ほどまで歩を進めた。ツトムの足跡が残っている。正確には、「悪いもの」を足止めしているときの、足が土にめり込んだ跡だ。

「これは? ――まだ思念が残ってる。いがぐりのあんただね」

「誰がいがぐりじゃあっ」

 ツトムが返すが、おばあさんは聞いてもいない。足跡に手のひらを向け、何かを読み取っているようだった。

「ほう、封魔の呪を唱えてあいつらを足止めしたのかい。それを、六回――六回も?」

「大変だったんですよ。足なんか、地面にめり込んじゃうし」

 ツトムがやれやれといった調子で言う。

「あんた、身体はなんともないのかい?」

「唱えている間は全身が重かったし、さっきまでへとへとだったけど、今はなんともないな」

 おばあさんは返事をしなかったが、小さく「化け物か」とつぶやいたのが聞こえた。

「なんとなく分かってきた。お札がだめになって、お嬢ちゃんが書き直している間に、いがぐりがあいつらを足止めしてたわけだね」

「誰がいがぐりじゃあっ」

「でも、それだけではいくらなんでも無茶だ。どうやってあいつらを封じたんだい?」

 ツトムとミサが、キヨヒコのことを見た。キヨヒコはまごついたが、黙っているわけにもいくまい。

「お稲荷さんの口に、石がはまっているのを見つけたんです。いたずらか何かだと思いますが…。だから、ここの神様も力が弱ったのかなと思って、石を外しました」

 稲荷像の口にはまっていた石を、キヨヒコは手渡した。おばあさんはしげしげと眺める。

「なかなか大きいもんだね。ここの神様も困っただろうに。大方、その辺のガキンチョがあいつらにそそのかされてやったんだろうが」

 おばあさんはキヨヒコに視線を転ずる。

「私が不思議なのはね、なぜあんたにこれが見えたのかだよ。封じられているとはいえ、あいつらにも、これを見えづらくする程度の力はある。だから普通の人間なら、稲荷像の口に何かがはまっていることなんて、気付きもしない」

「確かに、俺も石のことなんて、まったく気付かなかった」

 ツトムも言い、それを聞いたミサもうなずく。

「何より、私自身が気付かなかったからね。これでも、休みの日には足を運んで掃除をしているんだ。この前来たとき、いやに神様の力が弱っているとは思ったんだが、まさか石が稲荷像の口にはまり込んでいるとは思いもしなかった」

 おばあさんは、私も年だね、と言い、社に向かって手を合わせた。三人も、なんとなく真似をする。

「あんたら、今日は巻き込んでしまってすまなかったね」

 振り返ったおばあさんは、今まで見たことのない笑みを浮かべていた。

「約束通り、もんじゃはただ。今日だけじゃなくて、これからずっとただ」

ツトムが、「やりー」とガッツポーズを決める。

「それで、だ」

おばあさんは言い足した。

「どうやらあんたらには、他の人にはない強い力があるらしい。どうだい、巻き込まれついでに、これからも私の手伝いをしてくれないかい?」

 三人は顔を見合わせた。

 これこそ、駄菓子屋除霊組の結成された瞬間だった。

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