デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる

ぽち

第一章、バクダンのバはバランスのバ。

第1話

「ふぉぉぉお……! 当たってる……!」


 私こと、山本凛花がその通知メールに気付いたのは、もう寝ようかと考えていた夜中の十一時くらいのことであった。


 寝る前に、PCを起動して、簡単にお仕事のメールが来ていないかを確認しようとしていたところに、こんなメールが届いていたのである。


 【重要】Life is Adventure 御当選通知


 現実と全く変わらない五感がヴァーチャル世界で再現出来るようになって約五年――。


 その五年後に満を持して発売されようとしている本格派VRMMORPGこそが、このLife is Adventure――通称、LIAなのである。


 勿論、この五年の間にVRMMORPGは沢山発売されている。


 だが、どれもこれもが新世代のVR機器の能力をフルに活かしきれていないというか、五感に完璧に訴えかけてくるような画期的なシステムにまで達していなかったのだ。


 昔、小説や漫画の中で人々が驚く程の感動をVRMMORPGで味わうような表現が使われていたが、現代の技術力ではそこまで至っていなかったのである。


 この問題については、開発費や開発規模、開発会社の技術力不足などが嘆かれていたが、今回のLIAに関しては違う。


 ゲームレビューを行った雑誌記者の尽くが、満点を付けて絶賛し、あまつさえ「新世界をLIAは体験出来る!」と最大の賛辞を送ったほどなのだ。


 開発元のユグドラシルという会社も、「LIAはひとつの別世界をコンセプトに、五感で世界を感じられるのは勿論、自由度に関しても既存のRPGの枠を超える新時代のゲームです」というコメントを出したのだから堪らない。


 当然のように、LIAはゲーマーを中心に否応なく期待値を高め、そんな熱にあてられたのか、一般の人たちも、「それだけ言うならやってみようか」と、大きな社会現象となって、LIAをプレイしようという機運が高まっていったのである。


 お陰様で、初回出荷本数十万本の購入は抽選制となり、私はめでたく十万人の当選者の一人として選ばれたのであった。


 勿論、LIAをプレイするため(LIAの為だけじゃないけど)の新型VR機器は購入済み。こういうことには、全力を尽くすタイプというか、趣味が休日にゲームをプレイをすることしかないオタク女ですから、ぬかりはありませんぜ!


「ん? もう一個メールが来てる。妹からか?」


 内容を読んでみると、妹もLIAの初回出荷に当選したらしい。


 喜びと共に、「お姉ちゃんとは運の良さが違うんだよ! 運の良さが!」とマウントを取ってきたので、「私も当選してますけど、何か?」と手早く返しておく。


「しかし、こうやって初回出荷の購入が決まった以上、やらねばなるまいな……」


 そう。


 廃プレイをやらねばなるまいて……!


 というわけで、完全受注生産のお仕事……イラストとかデザインの仕事だ……の新規オーダーを完全ストップ。


 こういうところの自由がきくのが、個人事業主……まぁ、絵師なんだけど……の良いところだよね。


 で、今受けているお仕事を、初回出荷のLIAが届くまでに終わらせる予定をきっちり立てる。なかなかタイトなスケジュールになったな……。


「割とギリギリか……。手を抜けば早いけど、それは私の沽券に関わるから、絶対にやらない」


 好きでやっている仕事だ。そこに手を抜くことは出来ない。全力で可愛かったり、エロかったり、カッコよかったり、分かり難かったりする絵を描いてやる!


「フフフ、この追い詰められた精神状態が、最高の仕事を生み出すのだー! うひひ!」


 とか、キモ笑いしつつ、仕事をこなすこと一ヶ月。


 ようやくソフトが届きましたよ。


 仕事?


 うん、完璧に終わらせたよ……。


 結構無理したけどね……。


 貫徹当たり前!


 エナドリのお世話になりました!


 でも、間に合ったから問題なし!


 リテイク掛けてきた客もいなかったし、普段と違って一発オーケー連発だったのは、本当に精神面のアレコレが関係していたのかもしれない。もしくは、執念かな?


「えーと、ソフトを読み込み装置ドライブに入れてと……」


 そんなこんなで、今はLIAを起動させるための設定中。起動自体はソフトを突っ込んで、ネットワークに繋いだ状態で付属の認証キーを入力するだけ。


 そうすると、ネットワーク上で確認が取れたところでVR機器にデータがダウンロードされて、ダウンロードが終わったらゲームの初期設定とかが出来るようになるみたい。


 ちなみに、LIAは個人データとハードウェアとソフトウェアを括り付けて認証するシステムを取っているらしく、最初にゲーム起動をした状態から、どれかひとつでも条件が変わるとゲーム自体が起動出来なくなる仕組みらしい。


 つまり、中古販売は出来ないということ。


 また、プレイヤーの成りすましも出来ないということが言われている。


 さて、ダウンロードに時間が掛かるので、その間に食料の買い出しにでも行ってきますかねー。


 ■□■


 戻りましたー。


 お、ダウンロードが終わってる。


 冷蔵庫に食料を詰め込んでから、早速ヘッドギア型のディスプレイを装着して、私はベットに倒れ込む。


 勿論、床ずれとかがないように、ベットはふかふかもふもふのものを用意しているでござんす!


「さて、それではようやくお楽しみのLIAを起動だー!」


 次の瞬間には、私の意識は一瞬で真っ白な空間に引き込まれ、そして次の瞬間には真っ黒な背景に上書きされていた。


 これは、宇宙……かな?


 三百六十度、見渡す限りの星空の中に一人の少女が浮かんでいる。


 そう、私だ。


 相変わらず、歳とかけ離れた見た目をしている。どう見ても、十七、八の小娘じゃん。


 そして、目を瞠る程の美少女っぷりも健在。


 まぁ、そのおかげで引き籠もりになって、社会復帰し難くなって、引き籠もりでも出来るイラストレーターになったんですけどねー。天職だから良いけどもさー。


 というか、美少女って要領良くないとキツイんですわ……。もしくは、鋼メンタル持ちじゃないとね……。


 男子は馬鹿みたいに下半身に従って告白してくるしさー。それを素気なくフッてると、今度は女子に何様のつもりだよと総スカンくらうし。私、何もしてないのに完全無視あんどイジメの対象だからねー。


 人とのコミュニケーションもそう上手くなかったから挽回出来なかったし、もう面倒臭ぇーって登校拒否してたし。


 まぁ、今は平気でセンシティブな内容の絵をネットにアップしてニヤニヤするぐらいの鋼メンタルにはなってるけど……いやー、あの時は辛かったわー。


 というわけで、私の暗黒時代そのままの姿が宙に浮いている。成長? してないね! そういう体質っぽいからね! でも、一部は成長していて、更に男を惹き寄せる感じになってるんじゃない? もう、何? 完全に女の敵じゃん。同性の友達が欲しいんだけども?


 一応、あんまり着心地の良さそうじゃない布地の服の上下を着てるけど、凄いパツパツだね。見てるこっちが恥ずかしいよ!


 で、そんな私が目を開けると、こっちにすぃーっと近付いてきて……私の目の前で止まる。


 ▶アバターの見た目を決めて下さい。


 そうして、ずらっと整列する変更要素のアイコン群。


 うーん。決定できる項目多過ぎじゃない?


 あ、一応、下にヒントとして、思考スキャンで感覚的に見た目は変えられますとか書いてあるね。


 つまり、髪の色に視線を集中させると……。


 あー、髪の色の項目が選択されて、パレットが出てきたね。


 へー、一色を指定ってわけじゃなくて、グラデーションとか、複数色、ピンポイントでの色変更も自由自在かー。


 流石、自由度が半端ないと言っちゃうだけあるね。


 とりあえず、絵師としては、細部にまで拘りたい所存。


 そんなわけで色々と探していたら、種族選択なんて項目があった。


 これで、ベースの姿を変えられるみたいだ。


 人間、エルフ、ドワーフなんかは基本で、ゴブリンとか、ドラゴンなんかもあったりするんだけど……。


 いや、ドラゴンとか選んで大丈夫なの? いきなりの四脚生活もあれだけど、周りに仲間もいなそうだし、人間に討伐されそうになる未来しか見えないんだけど……。


「あ、魔族とかもある」


 これ、焦って始めた人は、絶対見逃しちゃう奴だよね?


 しかも、このLIAはやり直しのリセットが出来ない仕様。


 見逃しちゃった人は、残念だけど種族変更は諦めてって感じかな?


 しかし、私は何を選んだら良いのかな……って、考え込んでいる私の目の前でドラゴンの種族が消えた!?


「これ、特殊な種族は人数制限あったりする?」


 もし、そうだとしたら早いもの勝ちだ。


 のんびりと容姿を決めている場合じゃないかもしれない。


 いや、でも、焦って変な種族にしちゃうと、その後のゲーム進行が大変になっちゃうよね? ここは、慎重に、でも急いで……。


 あー、でも、せめて人間に近い形の生物にしたい!


「というか、人間種族だけはやめておこう。中学時代の二の舞いになりたくない……」


 男に寄ってこられてゲームどころじゃない事態にだけはなりたくない。特に、人間は絶対に敬遠だ。


 とはいえ、モンスター種族もなかなかに個性的な連中が多い。


 やっぱり、人間っぽい見た目の奴が良いなぁ。尻尾でバランス取って歩くとか難しそうじゃない?


「吸血鬼とか? うーん、弱点が分かりやすいのはちょっと……」


 有名すぎて、弱点丸わかりの種族もNGかなー。対人戦で対策されて終わる未来しか見えない。


 色々と探していたら、ちょっと良いのを発見してしまった。


「ディラハンか……」


 首なし騎士として有名なデュラハンのLIAバージョンなんだけど、コイツ、アンデッドじゃなくて妖精なんだね。


 というか、何でデュラハンじゃなくて、ディラハン? とは思うけど、まぁ、ゲームによって呼称が変わるのは良くある話だしね。どう見てもスライムなのに、ゲルって名前だったりさ。


 だから、まぁ、このゲームではディラハンって呼称なんだろうなって納得するよ。


 まぁ、もしかしたら、デュラハンって聞くとアンデッドのイメージが強いから、それとは別で妖精ですよーって運営が言いたかったから、あえて名称を変更したのかもしれないね。


 というか、ディラハンは首なし騎士という括りのせいか、最初から立派な鎧と武器を持っている。これって、初っ端の金欠の時に装備の買い替えが必要ないのでは?


 とりあえず、種族をディラハンにしてみて、見た目ヴィジュアルを確認。


 そうしたら、私の生首を小脇に抱える首なし女騎士が出来上がっちゃったよ。


 いや、怖いな、コレ。


 というか、これ、視線の位置大丈夫? 酔わない?


 そう考えていたら、視線がアバターのものに変化して、急に下がった。


 うーん。違和感はあるけど慣れるかな?


 というか、頭の位置を元に戻せば問題ないか。


 えいっと頭を首にドッキングさせたら、普通に強そうな騎士状態になったよ。うん、いい感じ。


 よし、種族はディラハンにしよう。


 で、鎧のデザインはちょっと細部に拘ってカッコ可愛くしようかな? 今は何かズングリムックリの肉壁タンク野郎みたいなデザインだからね。


 もっとシャープで格好良いけど、女性らしさも出したエロ格好良い感じにしてみようっと。


 流石にビキニアーマーはないけど、ある程度の肌露出もありかな。


 そんな感じでデザインを弄くり回すこと三時間――。


 出来ました!


 すっごい拘った結果、お腹とか二の腕とか太腿とかを見せつけちゃってる白銀の騎士が出来上がりました! ナニコレ、どう見てもディラハンじゃない!


 というか、だねー?


 ディラハンを種族に選んだら、馬車と棺桶のデザインまで出来るようになったんですけど? え? 付属品なの? どういう設定?


 なので、そちらも思い切り格好良くしてみました。


 ちょっとした宇宙船みたいな馬車に、どこの宝箱だよっていうぐらいの豪華絢爛な棺桶をデザインしましたよ!


 で、ようやくアバターの容姿を決定!


 決定してから気付いたけど、私自身の容姿を弄ってなかったわ。髪を鎧に合わせて銀髪にしたぐらいで、素の私の顔のまんまだったわ。


 まぁ、そのへんは兜とかで何とか誤魔化せば良いか。


 で、アバターの後はユニークスキル決め。


 ユニークスキルはランダムで決められるんだけど、気に入らなかったら何度でも引き直しが出来るらしい。


 事前に作られていた攻略サイトでは、アバターに凝るよりも、こっちのユニークスキルガチャに時間を突っ込むのが正解だとか書かれていたっけ。


 なにせ、ユニークなスキルだ。


 つまり、世界にひとつだけのスキルである!


 要するに、これも良いユニークスキルは早いもの勝ちということなのだ!


 というわけで、私よりも早くアバターを仕上げた人たちは、良いユニークスキルを求めて絶賛引き直しの真っ最中なのだろう。


 下手すれば、もうユニークスキルを決定して、ゲームを始めているかもしれない。


 うーん、ここは急いだ方が良いだろうか?


 私が悩む目の前で、スキルの名前が入れ代わり立ち代わり変化している。どうやらランダムで変わっているらしく、目押しは出来なそうだ。


「まぁ、気に入るまで引き直しが出来るんだから、大して考えずにぽちっと」


 止まれ、と意識した瞬間にランダムで移り変わっていたスキルの表示が止まる。


 そこに書かれていたのは……。


 ▶ユニークスキル:【バランス】

 これに決定しますか? ▶はい いいえ


 バランス……。


 バランス……?


「え、どういうスキル? 普通、スキルって剣術とか、魔法とか、そういうのじゃないの?」


 疑問に思っていたら、答えが返ってきた。


【バランス】

 全てにおいて、バランスが取られる。


「うん。良く分かんない」


 全てって書いてあるってことは、行動の全てに補正が掛かるってことかな? 攻撃動作とか回避動作に補正が掛かって、有利に動けるとか、バランス感覚が良くなるとか、そういうこと?


 ディラハンなんて種族を選んじゃったものだから、近接戦闘がちょっと不安だったんだよねー。


 しかも、全てにおいてって書いてあるのは、どの場面でもスキルが発動するってことだ。だから、適用範囲が広いとみた。


「まぁ、運動神経が良い方じゃないし、これでいいか」


 とりあえず、はいを押して決定。


 ユニークじゃない、コモンスキルってのもあるし、足りない分はそういうので補っていけば良いでしょ。


 とにかく、今はデザインに使った三時間をさっさと進めて巻き返したい状態。よし、やるぞぉ!


 というわけで、ゲームスタートだー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る