原案っぽいやつの倉庫

めがねのひと

ねがいを。(てにをは。)

「流れ星来ないかなぁ」


ベランダで星空を眺めながら恋人がそう呟く。


「なんか頼むの?」

「うん、織姫と彦星とはみたいになりませんようにってさ」


純粋に引いた。今日を含めて彼らは一年のうちに何度勝手に引き合いに出されているんだろう。ひねくれた脳みそではそんな意地の悪い思考しか巡らない。


「はいはい、どうせあんたにはこの考えが分かんないんでしょうね」


俺の考えを察したのか隣でぷくっとふくれっ面になって「アイス取ってくる!」なんていってエアコンの利いた部屋に消えて行った。


「…そもそも星になんて願わなくても死ぬまでは一緒にいるけどな」


生憎だがこんな可愛い言動をする恋人を俺がとちって手ばなすなんてことないだろう。本人が離れたいと願ったところで離すつもりはないし。

残り僅かになった煙草を携帯灰皿に押し付けて、俺もいい加減部屋に戻ろうとしたその時だった。

にやにやとした顔が視界に現れる。


「…似合わないねその台詞」

「うっせ」


まだずっとにやにやとし続ける恋人の額を軽く小突いて、俺もようやく文明の利器にあやかることにしたのだった。



(暗転)

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