第4話 「レキシントン」被弾、「サラトガ」被雷

1942年6月12日



 多数の被撃墜を出しながらも、ヴァル、ケイトは執拗かつ勇敢であり、TF1のレキシントン級空母2隻は徐々にではあるが、追い詰められていた。


 最初に被弾したのは「レキシントン」で、500ポンド爆弾が3発、飛行甲板の前部、中央、後部にほぼ等間隔に命中した。


 内1発は飛行甲板を貫通し、「レキシントン」の全長119メートルの格納庫内で炸裂し、出撃を控えていたF4F、ドーントレス、アベンジャー10機以上を破壊せしめた。


 「レキシントン」は発着艦不能の状態となってしまい、姉妹艦「サラトガ」も無事では済まなかった。


 「サラトガ」を襲った最初の魚雷は、左舷艦首に命中した。


 魚雷命中の瞬間、凄まじい衝撃と衝動が「サラトガ」を襲い、何十人もの乗員が「サラトガ」艦外へと吹き飛ばされ、海面に投げ捨てられた。


 艦首からは「浸水」という名の災厄が始まっており、大量の海水が「サラトガ」艦内に流れ込み始めて、警報が艦全体に鳴り響いた。


 艦首の被雷に対する処置を艦長が出そうとする前に、2本目の魚雷が「サラトガ」の右舷前部に命中した。


 この魚雷命中によって「サラトガ」の右舷側には5メートルもの巨大な風穴が開き、既に始まっていた浸水が数倍の規模になって急拡大を開始した。


 「サラトガ」は基準排水量3万トンをはるかに超える巨艦であり、魚雷2本の命中では、弾火薬庫に命中しない限り、沈むような事はなかったが、この艦が「レキシントン」に続き、戦力外に去ったのは、誰の目からも明らかであった。



 第1航空艦隊司令部は決断を迫られていた。


「第1次攻撃終了。敵レキシントン空母1隻に爆弾3発乃至4発命中。同1隻

に魚雷2本命中。2隻との沈没の気配無し。反復攻撃の用ありと認む」


「零戦、99艦爆、97艦攻、計120機で敵空母部隊の一群を攻撃したのにも関わらず1隻も撃沈することは叶わなかったか・・・」


 第1航空艦隊司令長官南雲忠一中将は拍子抜けしたように呟いた。真珠湾攻撃であれだけ大暴れした1航艦の航空隊が、敵空母の1隻も仕留めれなかったという事実が理解しがたかったのかもしれなかった。


「第2次攻撃隊の攻撃目標を切り替えますか?」


 参謀長の草鹿龍之介少将が第2次攻撃隊の攻撃目標変更を提案した。


「攻撃目標の変更は絶対に行ってはなりません! 第2次攻撃隊は既に敵空母3隻を基幹とした米機動部隊(敵甲2部隊)に向かって進撃中であり、ここで攻撃目標を変更してしまえば、攻撃隊全体が混乱・・・、いや、最悪の場合、攻撃隊が大空で敵部隊を発見出来なかったという事態になりかねません!!!」


 草鹿の提案に対し、南雲が何かを言おうとする前に、首席参謀の源田実中佐が強い口調で反対意見を述べた。


「だが・・・」


 草鹿の言葉が詰まった。源田の意見に理があることを認めつつも、既に傷を付けた敵正規空母2隻――それも日本軍の「赤城」「加賀」に匹敵する巨艦を取り逃がしてしまうことを何よりも危惧しているのかもしれなかった。


「こうしよう」


 頭の中で自分の意見をまとめた南雲が口を開いた。


「1航艦の正規空母6隻と、第3航空戦隊の『隼鷹』『龍驤』には第3次攻撃隊用として温存されていた機体が計60機程あるはずだ。それらの機体と第1次攻撃隊から帰還した機体の中から損傷が軽度の機体を選抜して第3次攻撃隊を編制しよう。機数的には十分に足りるはずだ」


「長官の意見が最善と考えます」


「長官。一つ宜しいでしょうか?」


 草鹿が南雲の意見に同意し、落ち着きを取り戻した源田が意見具申を試みた。


「なんだ?」


「損傷した敵空母2隻が所属する米機動部隊(敵甲1部隊)は、我が軍の追撃をかわすためにミッドウェー近海から離脱を試みる可能性があります。その部隊の所在が分からなくなるのを防ぐために、第8戦隊『利根』『筑摩』、第3戦隊の金剛型戦艦4隻に搭載されている水偵を用い、損傷した敵空母との触接を続けてはいかがでしょうか?」


「第8戦隊、第3戦隊の水偵はどれ位残っている?」


「第8戦隊、第3戦隊の水偵は明朝の索敵でかなりの機数出撃しましたが、半数程度は即座に出撃可能だと考えます」


 草鹿が答えた。


「よし、水偵を2機1組のペアにして敵甲1部隊との継続的な触接を実施せよ。水偵の数が足りないようだったら、第2艦隊に増援を要請しろ」


 南雲は新たな命令を発した。


 程なくして、第3戦隊「利根」「筑摩」、第3戦隊「金剛」「榛名」「比叡」「霧島」、第2艦隊の戦艦、重巡から多数の水偵が発進してゆき、それと入れ替わるようにして米軍の第2次攻撃隊が第2艦隊上空に殺到したのだった・・・


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2022年9月13日 霊凰より





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