復活!クリムゾンドラゴン!!

@syu-inononn

1 襲来。目覚めよ。ドラゴン。

 それは例えるなら崩壊。

 いくら来るとわかっていても、いきなり過ぎるものだ。

 いつもの日常が当たり前。

 学校に行って授業を受けて、友達と楽しく話をする。

 授業が終わったら家に帰って勉強をする。

 それが当たり前の日々だった。


 琳音(りんね)学園高等部2年生、メルフィーア=アースガルドは壊されていく都市を見上げた。

  彼女の夕焼けのように紅い髪の毛は腰まで伸びており、まるで炎の様に揺らめいていた。


 街では大きさだけ高層ビル顔負けの怪物数体が暴れていた。

 そのフォルムは大きな岩を組み合わせて、人の形を為していた。

 普段は人々がひしめく街の通りではファンタジーゲームに出てきそうな小鬼の大群が街行く人々を襲っていた。

 

 メルフィーアは学校の授業が終わり、帰宅の道中でこのような異変に襲われた。

 何処にでもいるごく普通の女の子であれば逃げ惑うしかなかった。

 しかし、彼女は違った。

 メルフィーアは思い立ったのか、小鬼の大群の隙をすり抜け、ある場所に向かって走り出した。


 ーーーーあそこにあったはずだ!


 彼女の頭の中にある遥か昔の記憶。

 彼女は幼い頃師匠と呼んでいた男と一緒に旅をしていた。

 その男は彼女と同じ炎のように燃え盛る髪色だったのは覚えている。

 その師匠が教えてくれたのだ。



『もしもの時はこれを使いなさい』


 そう言って渡されたのは、幼い彼女と同じくらいの大きさの剣。

 幼かったその時、手に持ってみたが持てなかった大きな剣。

 赤い独特の模様が入った両手剣。



 その剣と同じものがある場所にあった。

 ーーーー学校の近くにある図書館の展示室だ。

 その展示室には数年前学校の裏山に落ちた宇宙船らしきものがかざられていた。

 そして、そこから見つかった遺留品が数点飾られていた。

 その遺留品のひとつにその剣があった。

 とにかくその剣があればこの異常事態を何とかすることができるとメルフィーアは考えた。



 ーーーー理由はわからない。多分手に取ればわかるはず。


 メルフィーアはひたすら進んだ。

 小鬼たちの合間をぬって駆け抜けた。





「くっ・・・・・・」



 ーーーーだけど、これ、どうするのよ?

 

 目の前に並ぶ1ダースはいるであろう小鬼の集団。

 メルフィーアは図書館の通路に現れたのを見て、毒気付いた。

 彼女は唇を噛み締めた。

 ここを突破しないと目的地には着かない。

 悩んでも仕方ない。ここはどうにかして進むしかないだろう。


 ーーーーと思った瞬間、目の前で閃光が走った。


「第五楽章!神薙!!」


 小鬼の集団はそれぞれ二つに切り裂かれ、塵となった。

 そして、目の前に一人の少年が姿を現した。

 中肉中背だと思われる一人の少年。

 金色に光る短い髪が印象的な人物。


「あんたは隣のクラスのカミト!!!」


 メルフィーアは思わず叫んだ。


「光栄ですね。オレの名前を覚えているなんて」


「当たり前よ!!こないだの全校剣道大会でわたしを一瞬で倒したのよ!」


 おまけにこのカミトと言う男、そのまま優勝までしたのである。

 メルフィーアに取ってカミトは倒すべきライバルの一人だ。そのライバルに助けられるなんて彼女にとって恥でしかない。


「・・・・さて、言いたいことは掃いて捨てるほどあると思いますが、ここは行ってください」


「どう言うこと?」


 メルフィーアは思わず返した。


「あなたが避難をしなかったには理由があります。ただし、オレは知りません。ただ、持たぬものを守るのは持つものの矜持です」


 カミトは刀を抜き、襲いかかろうとする小鬼たちを睨み付けた。

 メルフィーアはあまり背丈が変わらない青年と背中合わせになる。


「わかった。ここはありがたく行くわ」


 メルフィーアはカミトの言葉を理解し、足を進めることにした。


「だけど、ここで死ぬのは許さないわよ。あんたを倒すのはわたしなんだから!」


 メルフィーアは語気を強く言い放つと駆け出した。 

 メルフィーアはひたすらかけていた。

 小鬼の合間を縫って進んでいた。



 大きな扉が目に入った。

 ーーーーあの剣が飾られている展示室だ。


 メルフィーアは有無を言わさず扉を開いた。

 剣はあった。ガラスケースに入った状態だった。


 ーーーーガシャンッ!!!!


 ガラスが割れる派手な音が響きわたった。

 メルフィーアは近くに置いてあった椅子を手に取り、

 剣が入っているガラスケースを問答無用で割ったのだ。


 彼女は剣を手に取ると天にかざして叫んだ。



「ドラゴーン!!!!!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・



 まるで雷が落ちるような音が響く。

 剣から放たれた光が彼女を包み込んだ。


 そして、メルフィーアが目を開くと明るい空間。

 そこはコックピットのようだった。

 彼女はイスに座らされており格好も制服ではなく、

 赤を基調としたパイロットスーツを纏っていた。

 彼女の目の前には、操作パネルやレバー、外を見るためのディスプレイもあった。

 彼女はそこにいたことがあったのだろうか?

 手始めにナビと書かれたボタンを押した。


『オハヨウ、メルフィーア』


 機械的な男性の声が響いた。

 彼女の目の前のパネルにGの文字が表示された。


「おはよう。ジェネシス、久しぶり。サポートお願いしていい?」


 メルフィーアは平然と言い放った。

 しかし、彼女の中では何年も会ってない幼なじみの男の子と会話するような気はずかしさを覚える。

 ーーーー何とも言えない感情を整理するのは後回しだ!

 今はやらないといけないことがある!!!



 メルフィーアはそう自分に言い聞かせた。


『問題ナイ。メルフィーア、ワカルカ?』


「んなもん!感覚よ!!!」


 メルフィーアは有無を言わさず、目の前にあるレバーを握った。


『ワカッタ。クレグレモ無茶スルナ』


 パネルに次どうすればいいのか表示された。



「・・・・・なんだ?あれは!?」


 小鬼の大群を片付けた少年、カミトは空に現れたものを見て驚きの声を漏らした。

 巨大な卵のような物体。

 炎のように紅く輝くそれは突如として姿を現した。


 それと同時にカミトの横を突風が吹いた。


「さえずりさん!!?」


 カミトは自分の横を通り過ぎた存在についてよく知っていた。


 ♪♪♪


 突如機械音がした。

 カミトは何も言わず小型の通信機をポケットから取り出した。


「アラトか?そっちにさえずりさんいるか?」


『いないよ。さえずりさんならさっきすごい勢いで飛んでいったけどどうしたの?兄さん?』


 通信機の向こう側から愛嬌のある少年の声がする。


「あぁ。大丈夫。問題ない」


 カミトは通信を切ると通信機をポケットに入れた。

ーーーー理由はわからないがとにかく彼女はそこに向かったんだ。


カミトはさっき通り過ぎた存在に対して少し戸惑いを覚えた。


ヒューーーー


さっき現れた巨大な卵は光に包まれた。

そして、光が晴れた瞬間そこには巨大な聖騎士といえばいいだろうか。

紅を基調とした鎧を纏い、銀色の顔した巨人。

大きさは下手なビルより大きい。

ーーーー幼い時映像で見た正義の巨大ロボットのようだ。


カミトはあまりにも神々しいそれにそのまま見とれていた。



『クリムゾンドラゴン!!!ゴー!!!』


どこかで聞いた女の声がした。


「・・・・・今の声、まさか!!?」



カミトはその声に驚くしかなかった。



「やるしかない!!!ジェネシス!目の前の敵の位置を表示して!」


クリムゾンドラゴンと名乗った巨人の中、コックピットではメルフィーアが躍起になっていた。

彼女は両手でレバーを握り、巨人を動かし出した。


『了解。アノ少年タチデハ倒セソウニナイヤツヲ表示サセル』



メルフィーアの目の前にあるパネルの一つに外の映像が表示された。


大きなビル街の中、暴れている大きな石の怪物の映像だった。


「待って!?どういうこと!?」


そのビルの一角の窓にはメルフィーアにとって見慣れた男の顔が写っていた。

メルフィーアを引き取った男で、彼女はおじさまと呼んでいた。

軍の司令なのだろうか。纏う空気が他の人物と圧倒的に違っていた。

男は外の様子を見ながら命令を飛ばしていた。


「おじさま!!!逃げてください!!!お願い!!!」


メルフィーアの叫び声がクリムゾンドラゴン内に響く。

彼女は恐怖の余りヤケになった。

バン!!とコンソールの上で拳を叩く。痛みと虚しさが拳の中に響く。



ーーーー勇者さま、聞こえますか?


メルフィーアの頭の中で声が響いた。


「ジェネシス、なんか言った?」


絶望にうなだれた彼女は口を開いた。


『ナニモイッテナイ』


「だれ?誰が喋ったの!?」



ーーーーごめんなさい。驚かしてしまって。

    わたくしはさえずり。

    ツクヨミ様の命であなたを助けにきたの。



メルフィーアの頭の中で優しい女の声が響いた。


「さえずりさん、お願い!おじさまを安全なところにつれていって!!!」




ーーーーお安いご用ですわ。勇者様!



クリムゾンドラゴンの中の空気が変わった。

メルフィーアは耳がキーンとした。


ーーーー頭が痛い。息苦しい・・・・。


メルフィーアは自身に生じた苦しい感情を押し殺した。


『メルフィーア、シッカリシロ。今ダケダ』


心なしかジェネシスの声はメルフィーアには優しく聞こえた。

空気が元に戻った。


「ふぅーーー」


メルフィーアは大きく息をついた。

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