ルームメイト

連喜

第1話 出会ったきっかけ

 俺は世にも奇妙なバイトを始めた。

 そのきっかけは、下記のようなものだった。


***


 俺は精神疾患がある人のTwitterアカウントをよく見ている。

 理由は自分自身が発達障害だからだ。近い悩みを持つ人のツイートを見ていると、同調したり、同情したりで、精神的に落ち着く。発達障害は患うというよりも、生まれつきで一生治らないらしい。だから、発達障害を発症するなんて書き方をしている人を見ると、ちょっと違うと思ったりする。


 世の中、いろんな精神疾患がある。

 鬱、双極性障害、統合失調症、解離性人格障害、等々・・・。

 メンタルを病む人間としては、そのような人たちに、何となく、親近感を抱いてしまう。申し訳ないけど、きっと自分より統合失調症や鬱の方が辛いだろうと思うと、気が楽になる。発達障害が大変なのは、本人よりも周囲ではないかと思っている。


 ツイートを見られている相手にとっては不快だろうけど、こちらからコンタクトしているわけじゃないし、フォローもしてないから、そもそも彼らは俺の存在を知らないはずだ。


 しかし、フォローはしてないのに、メールにYour Highlightsというお知らせが来る。メールにスクショが貼ってあって、リンクを押してまた訪問する。というのが続いて、いくつかのアカウントを毎日見るようになっていた。


 もちろん、ただ見てるだけ。一瞬見たいと思って、その人のページをざっと読むんだけど、フォローするほどでもないから、そのままにしてしまう。発達障害という名前で一括りにされても、一人一人症状が違うし、抱えている問題も様々だ。この症状は俺にもあるけど、こっちはないという場合が多い。そうなると、より症状が近い人を探すようになる。


 俺は自閉症スペクトラム障害と多動があって、人とのコミュニケーションが苦手だ。お陰で今も独身。友達もほとんどいない。一方、精神疾患の人でも結婚していて、相手の人にすごく理解があるという理想的なカップルもいる。本を出したりしているのは、こういう人ばっかりだ。俺みたいに死ぬまで一人と言う人の書いた本には、読者も希望を見いだせないだろう。パートナーが「一緒に治療しようとか」、「好きだ」と言ってくれているなんて聞くと、俺は辛くなって読むのをやめてしまう。


 それなのに、メールにお知らせが来る。


 俺は羨ましすぎて病み始める。


 結婚できる人もいるのに、自分は一人で、この先もずっとそうだと思うと心が折れそうになる。俺は発達障害のくせに、美人と結婚したいなんて贅沢を言っているからだろう。それがなかったら、もっと早く結婚できたかもしれない。多分、すぐ離婚してるだろうけど。


 それなのに、そういう恵まれた人に限って、こんなツイートをする。


「今日は落ち込んでいたから、〇〇〇と〇〇〇という薬を飲みました」

「処方された量よりも多く飲んでしまいました」

「頭がずきずきする」

「死にたい・・・」


 そんな風に書いてあると、その人のことを考えてしまう。

 大丈夫だろうか。

 薬を多く飲んだりしたら、やばいんじゃないか。

 生きてほしい。


 もちろん、DMなんか出さない。

 ただ、考えるだけ。


 ツイートを読んでいて、この人はもう末期だなと思うこともある。相当病んでいる時もある。すると俺は怖くなる。一人の人が崩壊していくのはまるで、自分を見ているようだからだ。


 ***


 俺はツイッターでは全然ツイートしてないし、1人もフォローもしてない。  

 

 それなのに、ある時、いきなり俺をフォローしてきた人がいた。俺がよく見ているアカウントの人だった。同年代の男性で、独身。会社員。都内勤務。アスペルガーだった。俺と似たようなプロフィール(俺は公開していない!)なので、親近感を抱いていた。そして、その人の何気ないツイートをいつも読んでいた。


 その人のフォロワーは30人もいなかった。失礼だけど、内容がつまらないのかもしれない。ツイッターを始めたのは結構前で、毎日、何回もツイートしている割には反応がないらしい。俺が前に英語でツイッターをやっていた頃は、海外のアダルト系のフォロワーが勝手に増えていたものだけど、日本語だとそういうのはないらしい。


 その人のツイートは『今朝は電車が混んでた』とか、『昼はすき屋に行った』とか、『日曜日にパチンコに行った』とか・・・サラリーマンあるあるのネタだ多かった。あんたが何してようが興味ない、と言う人もいるだろうけど、俺は親近感を抱いていたから、つまらないとは思わなかった。


 『コロナ感染者が多いのに電車混んでてヤバイよな』、『昼にすき屋行ってみようかな』、『パチンコなんて金がもったいない』とか、俺はいちいち心の中で返事をしていた。

  

 俺は不思議だった。なぜ、その人からフォローされたんだろうか・・・。もしかして、ツイッターにも足跡機能があるんじゃないか。しかし、調べてみたら、やっぱりそんなものはなかった。しかし、いつもその人のページを閲覧していると、おすすめユーザーに自分のアカウントが表示されやすくなってしまうそうだ。


 いつの間にかばれていたんだ・・・俺はちょっと恥ずかしくなった。

 俺のプロフィール写真と言えば、ネットから取って来た犬のイラストだった。


 俺は彼を意識するようになって、プロフィール写真を以前旅行に行った時に撮った景色の写真に変更した。何のためかはわからない。好感度を上げるため?自分も旅行くらい行くような、多趣味な人間と言いたかったんだろうか。

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