26話「小さな入口」

 赤色の光柱に吸い込まれるようにその場所に向かうと、城の裏側に続く水路の入口があった。


「ここが入口か」


 俺が魔ブーストを切り地に足を付けると、赤色の光柱が青色に変わる。それを確認すると、ダンジョンズアイをオフにし視界を良好にする。下水道の中ではこのスキルは使わないだろう。


 土管のように丸みを帯びた下水道の入口。ここはあまり手入れされていないのだろうか。土管部分の外側には、深緑色の蔓草が入口を塞ぐように垂れ下がっている。まるで一枚の布のような一体感だ。

 その、布のように垂れ下がった蔓草を乱暴に上に放ると、入口の鉄格子が顔を出した。

 湿った蔓草を触ったせいで手がぬめぬめする。俺は手を空中で振り滴を落としながら鉄格子に近付く。


 そして錆びた鉄格子に手をかけるとゆっくりと揺らす。


「……あれ?」


 その鉄格子は、拍子抜けする程簡単に開いた。耳障りなギリィという錆び付いた音を鳴らして、ゆっくりと奥に開く。


「よし」


 恐る恐る一歩踏み出す。

 地面から伝わる冷たい空気を感じながら、真っ暗で視界が悪いその先に向かって、壁に手をつきながらすり足で進む。

 足を動かす度にビシャ、ビシャと靴に汚水がかかる。しかし、靴が濡れる事なんてお構い無しに、壁伝いにゆっくりと歩く。

 何が出てくるかもわからない。そんな恐怖から、足元の水溜まりを気にしている余裕はなかった。


〈魔法適正がLv3になりました〉

〈魔法を習得しました――魔灯まとうLv1〉


 突然のアナウンスが、静まり返った下水道に響き渡る。

 "何か"には警戒していたつもりだが、反射的に体がビクッと反応する。


「なんだよ、もう!」


 あまりの驚きに、怒りを覚えながらも高鳴る心臓を宥めるように、ステータスで覚えたスキルを確認する。


 魔灯Lv1――自分についてくる灯りを出現させる。手のひらに集中し魔素を集めて使用する。暗い所で便利。灯りを切り離す事で、痕跡を残すようにその場に留める事も出来る。


 なるほど。今度は明かり系魔法か。


「……こうか?」


 俺は右手に集中し魔素を集めると、青白いぼんやりとした光が出現した。そして俺が動くとついてくる。その灯りから集中をやめると、灯りはその場に留まり松明のように辺りを照らし続けている。


 そして再び集中した。


 だいぶ明るくなったな。これだと足元も見えるし、少し先までなら照らされている。

 これで安心して進む事が出来るだろう。


 それにしても、魔法適正ってのは何をトリガーにレベルが上がってるんだ?

 なんとなくだけど、俺がつまずいた時とか、困ってる時に、図ったかのようにレベルが上がって魔法を覚える気がするけど。

 魔法適正……これが支援者からのギフトで、自然とレベルが上がっていく仕様なのか? それによって新たな魔法とか覚えるのか? まだよくわからないが――


「……っと、危なっ!」


 余計な事を考えながら歩いていると、足を踏み外しそうになる。


 薄暗い下水道の中を、靴を濡らしながら魔灯を頼りに進む。すると、柵も手すりもない細い足場が迷路のように繋がった場所に出る。足場の下には下水が流れている。気を付けて歩かないと下水に落ちてしまいそうだ。


 俺の予想だと、この下水道を抜けると城の中に繋がっている……はず。

 うん、王道RPGとかだと大抵こういう下水道の先は、城の地下とかに繋がってるってもんだ。


「さて、進もう」


 俺は自分の勘を頼りに歩みを進めた。

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