友達#3

 「思い出」この言葉はいろいろな意味を持つ。例えば、親に褒められた。怪我をした。友達と遊んだ。旅行に行った。行事をした。転校した。フラれた。

 これらは二つに分けられる。いい思い出か、そうでないかで。

 私は今日初めて、楽しい思い出を作ろうと思った。



「あっ!いたいたー!」

 遠くから大きく手を振ってこっちに向かってくるのは真っ白のワンピースを着た香ちゃんだった。


 軽く手招きして呼んでみる。


「おはよう!」

「もうおはようと言う時間ではないわね。」

 

 太陽はもう真上と言っても良い位置にあり、光と熱を私たちに届けてくれる。まだ春だが暑くないといえば嘘になる。


「細かいなー。」


 笑顔を見せ合った後、目的地の水族館に向かう。途中でコンビニによりアイス片手にゆっくりと進む。


 それだけでとても楽しかった。香ちゃんからしたら何度も経験した思い出のひとつかも知れないけど、私にとっては初めての思い出となるから。


「おいしいね。」

「こんなことしたの初めてだわ。」

「したことなかったの?」


その質問にはすぐに「うん」と答えた。目的地につき、大きな自動ドアから中に入る。少し効きすぎた冷房に体を預け、2人揃って、「すっずしぃー」と声を漏らす。


 エントランス的なとこでチケットを買いいよいよ水族館に入る。耳をすませば中からは楽しげな声が聞こえてくる。私は胸を躍らせて水族館へ一歩踏み出した。


「うわぁー何これ!かっわいいー!!」


 香ちゃんはすぐに水槽の中の魚に目を奪われる。私はと言うと薄暗い通路で青い水が辺りを少し照らす、そんな幻想的な景色を前に、完全に見惚れてしまっていた。


「ちょっと!恭子ちゃん!水族館だよー?魚見なきゃ!」


 テンションが上がっているからか、それとも魚に完全に興味を持ったのか、呪いの効果はあまりないようだった。


「ヨスジリュウキュウスズメダイだって。」


 黒と白の模様で小さい体、その体で優々と水中を泳ぐ姿に心を奪われた。家族連れの小さな子の声も、自動ドアの開閉音も、今はその全てが気持ちよかった。


「ヨシ?なんて?」

「ヨスジリュウキュウスズメダイね」


 こんな会話で楽しいと思えたのは初めてだ。私は香ちゃんに感謝しか抱けなくなるかも知れない。


「あれ知ってる!チンアナゴだよ!」

「残念、ニシキアナゴ見たいね。」

「一緒じゃん!」


 楽しそうに魚を見る香ちゃんは見ているだけで、心が軽くなる。


「もっと寄って!」


言われたままに肩を並べる。

カシャ!


「ちょっと!恭子ちゃん顔小さすぎ!美人だし!」

 

 そうだろうか、香ちゃんの方が可愛いし、表情も豊かだ。


「そんなこと無いよ。香ちゃんだって可愛いし優しいし。」


こんな時間がずっと続けばと思っていた。

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