異世界ラブホ経営 ~無能サラリーマンは異世界で世界最強~

桜井正宗

01 異世界ラブホ経営

 ホテルのオーナー・ユナを馬鹿にしたオーク族のクソ野郎は、俺がたった今“拳”で潰してやった。


「――――ぐあぁ……」


 頑丈で分厚い壁に激突し、血に塗れている巨漢オーク。当ホテルの常連客だったが、ついにユナに手を出そうとした。女子高生に手を出すとは、この俺が許さん。


 俺はセクハラと侮辱から守るため、正当防衛の名の元に鉄拳制裁を食らわせた。


 この“異世界”の俺は強かった。

 とにかく強かった。

 まるでスーパーマンのような気分だ。

 冴えないただの独身サラリーマンだった俺が異世界なら最強だった。


 この拳ひとつで女の子を守れている。


 こんなことになったのも一週間前。

 俺はこの“異世界”に転移してしまった。



 ▼△▼△▼△



『貴様はクビだ!!』



 上司からクビを宣告された――

 夢を見た。

 いや、いつそうなってもおかしくない。


 二十五歳の独身サラリーマンの俺は、オンボロアパートで冴えない生活を続けていた。


 毎日が繰り返し。

 毎日が貧乏生活。


 彼女もいなければ、楽しい趣味すらもない……退屈な毎日。


 このままでは腐っていく人生だ。


 けど、働くしかないよな。

 どうせ働くなら、もっと女の子のいる職場が良かった。



 トボトボとアパートを後にする。


 会社までの通勤路を歩いていると、今日は賑やかった。女子高生が多いな。……ああ、そういえばこの辺りは女子高があるんだっけ。


 ふと、俺の横を女子高生が通り過ぎた。


 キラキラ輝く金髪だった。

 わぁ、あんなモデルみたいな子がいるんだな。


 でもジロジロ見ているとキモイとか思われそうだ。あんまり見ないでおくか。



 会社に到着して同じ業務。

 変わり映えしない内容。

 上司からはガミガミ怒られて、右から左へ抜けていく。


「おい、啓示。聞いているのか!!」

「え、ええ……」

「ウチの業績は悪化している! このままではお前には責任を取ってもらうことになるがね」


「え……それってどういう」


 クビを切るジェスチャーを見せつけられ、俺は夢を思い出した。……やべぇ、このままだと会社をクビになるかもしれない。


 うそだろー!



 そうして一日を終えて――帰り。



 はぁ……首の皮一枚で繋がっている状況かな。いよいよ後が無さそうだ。このままでは俺は全てを失う。


 社会とはなんて理不尽で残酷なんだ。

 少しミスをすれば鬼のように問い詰められる。ストレスだ。ストレス社会だ。いい加減、うんざりだ。


 もっと働き甲斐がいのある楽しい職場があればいいのに。


 近くの公園にあるブランコで腐っていると、誰かに話しかけられた。



「ねえ、お兄さん……こっち向いて」

「え?」



 顔を上げると、そこには朝見かけた金髪の女子高生がいた。可愛くて顔を覚えていた。


「あ、やっぱり啓示さんだ」

「へ? 君だれ?」

「わたしだよ。わたし」

「新手の詐欺?」


「違うって。ユナだよ、ユナ。親戚の!」

「親戚……って、あぁ!」


 思い出した。十年前以上の話だ。親戚にユナって女の子がいた。でも、かなり昔の話だし、遊んだ期間も一週間そこらだ。

 確か、あの時は親の都合でお城のホテルに泊まって……楽しかったなぁ。


「やっぱりね。啓示さん、わたしのこと忘れちゃった?」

「思い出したよ。ユナちゃんね」

「うん、良かった。そんなに遊んでないけど、わたしは啓示さんのこと覚えていたよ。今はサラリーマン?」


「そ。冴えないサラリーマンさ。人生終わってる」


「そっか。う~ん、じゃあ人生変えてみる?」

「はい?」


 意味が分からなかった。

 なんだ“急に人生変えてみる?”って。

 やっぱり詐欺か宗教か。

 やばいな、ユナがいつの間にかそっちの道に……。


「啓示さんの家に行こっか」

「はぁ!? 俺の家って……いやいや、女子高生を連れ込んだらまずいよ」

「大丈夫だよ、親戚だもん」

「さすがに親に怒られるよ」

「信じて」


 その自然のような深緑の瞳は本気だった。なんだ、なんでそんな自信に満ちているんだ?


 でもなぁ……誰かに見られたらマズイ気が。けど、久しぶりの再会だし、親戚なのは本当だから……少しくらいならいいか。どうせ俺は終わってるサラリーマンだし。もう、どうにでもなぁれ!


「分かった。案内するよ。その代わり、おまわりさんに何か言われてもちゃんと説明してくれよ」

「大丈夫だって、ちゃんと親戚だって証明するし」



 そうして俺はユナをアパートに連れ込んだんだ。

 まさか現役の女子高生を部屋に入れることになろうとは……初めての経験だ。心臓がバクバクして、いけない気持ちに襲われる。



「ところで、ユナ。そのトランクはなんだ? デカいし、重そうだな」

「そう、これを説明しようと思ったんだ」


「トランクに何の意味があるんだ? 旅行?」

「まあ、ある意味間違ってないかもね。ていうか、啓示さんの部屋ってなんにもないね」


 そりゃそうだ。

 別にミニマリストではないが……なにか趣味に興じている暇なんてないし、そんな気力もなかった。俺は最近では無気力人間なんだ。


「で、どうやって俺の人生を変えてくれるんだ」

「このトランクに入るの」


「は? 俺を馬鹿にしてるのか。からかってるなら止してくれ」

「本当だよ」


 床にトランクを置き、パチパチとロックを外すユナ。そんなもので何が変わるっていうんだ。


 ――だが。


 トランクが開くと中から見たこともないような“ゲート”が開いた。



「……な、なんかバチバチしてるぞ!?」

「これは“異世界・ギガントマキア”に繋がっている扉・インフィニティゲートなの」

「は? ギガントマキア!?」

「啓示さん、異世界って行ったことない?」

「あるわけないだろ! ていうか、なんだこの魔法みたいなの! 信じられねえ」


 目の前には黒い扉・・・が召喚されていた。


 ……嘘ぉ。


 これ現実だよな。


 頬を引っ張っても痛かった。

 夢じゃない。本物だ。



「わたしと一緒に来て。異世界にある『ラブホテル』を経営しましょ」

「は……はぁ!? ラブホテルぅ!?」


「これがすっごく儲かるの。でも、用心棒が欲しくて……そこで一番信用できる啓示さんに決めたの! 大丈夫。向こうなら人間の方が強いから」


 ……ゲートだとかギガントマキアだとか……それにラブホテル? 意味わかんねぇ。……でも、でも!


 めちゃくちゃ面白そうじゃん!!


「分かった、まだ半分信じちゃいないが……信じる!」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」


「どうやって?」


「この扉を開ければすぐにラブホなんだよ」

「マジかよ」


 ユナは扉を開けた。

 ギィィィィ……と古めかしい音と共に向こうが見えてきた。本当にどこかに繋がっているんだな。


「さあ、行きましょ」


 腕を引っ張られ、俺はもう行くしかなかった。その先にある異世界とやらに。



 こうして俺は異世界に、

 ラブホテル『オリンポス』の用心棒として迎えられたんだ。



***おねがい***

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