第14話 ホラーのクイズの答えは、心中する気で出すもの

「しかし、何で、『あたま』がひらがな?」

 そりゃ、頭の方が漢字だったら、『頭つかえ』と四文字になるから、法則的には駄目だけど。


「この『あたま』というのもヒントなのかもな……」


「なるほど。この三行の文章の頭文字をひらがなにしてみるか」

 曜丙は自由帳を破り、改めて文章を書きだす。



『こたび異界へと誘われた不運なるもの』

『のこりの生をココで燃やし尽くすがいい』

『せいぜい頑張ってください』


『やみぢに迷ふ獣どもはお前らを見ていた』

『ぶたどもには過ぎたる羨望であり愚行だ』

『りせいを失いし憐れな獣たちを殺害せよ』


『がっこうは混沌に支配されている

『くるしみ悶えるしかないだろう』

『ふじょうりに嘆け、喚け、絶望しろ』


『かっこうが悪くても、足掻くのか?』

『いのれ、祈れ、祈れ、祈れ、間抜けども』

『でたらめに、淡い希望にすがって、悪化させろ』


『すみやかに異端者どもは排除すべきだ』

『てごころを加えようなどと思うな』

『ろうばの願いを絶対無駄にするな』


「で、これをさらに……キゴミのわらべ唄の歌詞の順番に合わせてみたらどうだろう、鋼始郎」


 書き終えたら、五つに切り裂いて、歌詞の順番に通りに並び替えていく。


 もちろん、自由帳で確認しながらだよ。

 スマートに頭の中で推理し解答を出すなんて、命の危険もあるこんなところで、やってられるか。


 こちとら現役小学六年生、漫画のひらめき力の高い主人公じゃないのだ。泥くさくても、不格好でも、確実性が欲しい。


 慎重な君が好きだよ、精神にのっとり、今時教育番組でもしないような丁寧なまとめ方をする。



 一番目は、青い犬のお面があった、音楽室。

 二番目は、赤い羊のお面があった、保健室。

 三番目は、黄色い牛のお面があった、教室。

 四番目は、白い馬のお面があった、放送室。

 五番目は、黒い豚のお面がある、ここ、男子トイレだ。



『こたび異界へと誘われた不運なるもの』

『のこりの生をココで燃やし尽くすがいい』

『せいぜい頑張ってください』


『かっこうが悪くても、足掻くのか?』

『いのれ、祈れ、祈れ、祈れ、間抜けども』

『でたらめに、淡い希望にすがって、悪化させろ』


『がっこうは混沌に支配されている

『くるしみ悶えるしかないだろう』

『ふじょうりに嘆け、喚け、絶望しろ』


『やみぢに迷ふ獣どもはお前らを見ていた』

『ぶたどもには過ぎたる羨望であり愚行だ』

『りせいを失いし憐れな獣たちを殺害せよ』

 

『すみやかに異端者どもは排除すべきだ』

『てごころを加えようなどと思うな』

『ろうばの願いを絶対無駄にするな』 


「……これで大分わかりやすくなったかな、鋼始郎」

「まぁ、そうだな。まさか、曜丙の卒業文集と同じネタだとは……」


 そのせいもあって、さっきから、うんこしたっていう、お前の初期案が俺の頭の中でグルグルしているのだが。


 アイデアを出すとき、なんでインパクトがあるやつが先行しちゃうのかね。


 クソ。


 二重の意味でクソだよ。


「え、そうなのか」

「そうだろ、だって……」


 入れ替えこそあったが、大元は、あいうえお作文だ。楽譜裏に浮かび上がっている

『あたまを使え(予想)』という意味にも通じるし、この考えが正解のはずだ。

 ……道理で怪文だったわけだよ。


「このせかいでがくふやぶりすてろ……この世界で楽譜、破り捨てろ、になるだろ?」


 何が起こるかはっきりとわからないが、楽譜を破り捨てないといけないのが確定した。


「え?」


「おいおい、つい先日あいうえお作文で卒業おめでとうって考えたやつが、なんて顔している」


 曜丙の方が楽勝で解ける気がしたのだが……まぁ、こんな怪異空間に囚われてしまったのだ。


 恐怖と緊張と焦りで、上手く考えが出てこなかったのだのだろう。


 ……うんこした、だものな。


 連想してしまった、俺の方がアホみたいだけど。


 あ~、本当、頭の中にこびりついているよ。モノがモノなだけに。

 どうにかしてぇ……。

 こうなったら、強烈なことを考えて、強制的に頭を切り替えるしかない。


 そう、例えば……殺し、とかな。


 俺は目を閉じ、心を落ち着かせる。


 やることが、やらなければならないことが、俺にはあることを再認識する。


「楽譜裏の絵文字の『歌え』も絶対的なルールだと思うから、ここの黒い豚のお面を殺してから楽譜を破るか、曜丙」


 いくら友でも、以心伝心とは限らない。


 判っていると信じることと、キチンと理解し合っていることは別物だからな。

 面倒臭くても、言葉にして、双方同意のもと事に当たりたい。


「……打倒な判断だな、鋼始郎。楽譜なしで笛を吹くのはきついと思っていたところだし」

 曜丙も容認。


 顔もいつもの調子に戻ったように、ニヤッと笑みを浮かべる。


 やはり一時的なものだったようだ。よかった。


「ああ。準備しようぜ」

 俺たちは、黒い豚のお面がある三番目の個室を開き、歌の途中でドアが閉まらないように、トイレの掃除用具ロッカーから、あらかじめ手にしていたバケツをドアストッパー代わりにする。


 ドアをおさえたら、後は歌うだけ。


「よし、固定完了」

「じゃ、吹くよ」

 勢いのまま、俺たちはキゴミのわらべ唄の五番を歌い出す。

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