第4話 新たな出会い

退院した僕は、雪奈さんからもらった鍵を握りしめ

神奈川の別荘に向かった。

実家にあった僕の身の回り品は、雪奈さんの方で引っ越しの手続きをしてくれた。

麗奈とは…会いたくなかったから…

あの後…麗奈がどうなったのかは…知らない…


雪奈さんにも暫く会いたくないと啖呵を切っておきながら

家といい、引っ越しといい、転校手続きといい…お世話になりっぱなしだ…

自分で自分の事が何も出来ていない…

そりゃ頼りなくて…雪奈さんも他の男に頼りたくなるよな…


自分で自分が情けなくなった。


・・・


「進藤 恭介です。仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。」

転校の挨拶を終えると新しいクラスメートはにこやかな雰囲気だった。

どうやら上手くやっていけそうだ。


「進藤君はあの席に座ってくれ。」

窓側の一番後ろの席だった。

隣には物静かなで眼鏡をかけていた女の子がいた。

僕は「今日から宜しくお願いします。」と挨拶をした。


女の子は「…………よろ…おね…す」

凄く小さい声でイマイチ聴きずらかったがどうやら挨拶を返してくれたようだった。


・・・


昼休み学食で新しく友達になった木崎からこんな事を聞いた。

「進藤、お前の隣の席の女、長瀬 朋美 って言うんだけど

 色々と悪い噂があるから気をつけろよ?」

「悪い噂?」

「…あんまり大きな声では言えないが…

 援交やっているとか…男を誑かすとか…」

「凄く大人しそうで…とてもそんな風な感じに見えなかったけど?…」

「確かにそうなんだけどな~でも火のない所にはって言うだろ?

 一応気をつけろよ?」

「分かった…心に留めておくよ。」


そんなこんなで午後に入ると

授業は英語でグループディスカッションが行われることになった。

隣の席同士で質問をしあう内容である。

僕は長瀬さんとペアを組んだ。


「What are your hobbies?」(貴方の趣味はなんですか?)

「I like romance novels.」(私は恋愛小説が好きです。)

「Oh~、That’s Great!Mee too.」(それは良い趣味ですね。私も同じ趣味です。)


大したディスカッションなんて出来なかったが、

お互いに小説が好きだという共通点がある事が分かった。


始めは小さい声でしか話せなかった長瀬さんは、

悪い噂や共通の趣味の友達がいなかった影響か

慣れてくると笑顔を絶やさずに僕に話しかけてくるようになっていった。


・・・


彼女は眼鏡を外すとかなりの美少女だった。

それに意外と胸もある。

僕は彼女にだんだんと恋心を抱き、信頼するようになっていった。


ある日長瀬さんは踏み込んで聞いてきた。


「進藤君は…どうしていつもそんなに悲しそうな目をしているの?」

「え?そんな風に見える?」

「うん…あ、でも、ごめん…言いたくなければ良いの…」


僕は迷ったがこの学校に来るまでの経緯を長瀬さんに話した。

彼女は黙って聞いてくれた。

僕は途中から涙声になり、鼻水を垂らして、嗚咽を漏らしながら話していた。

彼女は僕の顔を彼女の豊満の膨らみに押し付け、

何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれた。


どのくらい時間が経ったか分からないが僕は少し落ち着きを取り戻した。

彼女が語り始めた。

「その気持ち分かるよなんて言わない…その辛さは進藤君しか分からない…

 辛かったねなんて言うのは傲慢すぎると思う…」

 

「ただね…実は私も…似たような経験があるの…」

「え?…」

「私の噂…聞いた事ある?」


「……うん…転校初日に…」

「…そう…」

「でも…今ならそんなのでたらめだってはっきり分かるよ?」


「私の両親ね…5年前に離婚したの…

 で、3年前に母が再婚して…

 最初は義父も優しかったの…

 母も幸せそうだった…」


「でも…2年前に事故で母は亡くなったの…

 それから義父がおかしくなったの…」


「………」


「…段々とお酒に溺れ…暴力を振るわれるようになって…

 あの日…私…義父に…」

そう言った瞬間長瀬さんは震え出した…


「え?」








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