ロボット花嫁チェリーの本音

我破 レンジ

春、来たる

 荘厳なオルガンのが響いていた。そして優雅な讃美歌と共に扉が開かれ、ベールに包まれた花嫁がヴァージンロードに現れた。


 僕は壇上で彼女を待ち受ける。父を持たない彼女は、代わりに僕の親友と腕を組んで、ゆっくりと歩を進めていく。


 純白のきらびやかなウェディングドレスをまとう彼女に、僕はしばし見惚れ、気が付くともう目の前まで来ていた。


 親友に感謝の目配せをして、僕は花嫁に向かって手を差し出す。彼女も共に手を取り壇上へ上がり、神父の前に並び立った。


「新郎、マツシタ・スルガさん。あなたは彼女を生涯愛すると誓いますか?」


 その問いかけに、僕は迷いなく答える。


「はい、誓います」


 続いて、彼女にも同じ問いがなされる。


「新婦、チェリーさん。あなたは彼を生涯愛すると誓いますか?」


「はい、誓います」


 まるで自分のリプレイのように、彼女もはっきりと答えてくれた。


 僕らは今、神の前で永遠の愛を誓った。ここまでに至る、長いようで短い年月を思い、目頭が熱くなる。だがまだ泣くときではないと自制を利かせた。


 そして銀色に光る指輪を交換する。僕の指輪はうまく入った。でも彼女の指輪がうまく入らなかった。参列者から漏れる笑い声に苦笑しつつ、ようやく指に通すことができた。


「それでは、誓いのキスを」


 待ちに待った瞬間だ。僕は花嫁のベールに手をかけ、ゆっくりとめくっていく。


 そこにいたのは、真っ白な人工皮膚と、エメラルドの瞳を持った、女性型ロボットの美しい相貌。


 彼女の名はチェリー。一生を共にすると決めた、僕のたった一人のパートナー。


 チェリーが微笑んでいる。彼女は人が生み出した至高の芸術品だ。僕は今日、そんな彼女と結婚する。


 二人で目を閉じ、ゆっくりと唇を近づけていく。讃美歌とたくさんの祝福に包まれながら。


 キスを交わす瞬間、彼女との思い出がフラッシュバックした。初めての出会いから、彼女を愛すると決めたあの瞬間まで――


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