第6話 子供っぽいのはお互い様。


 双葉先輩と手を繋いだまま道を進み、ようやくたどり着いた喫茶店。


 駅前に位置しているだけあり、店内はお客さんで大いに賑わっていた。


「うはぁ、結構多いですね。座れるかな……?」

「最悪の場合ではあるが、相席も覚悟しないと駄目かもしれないな」


 そう言いながら、双葉先輩は店員に声をかける。


「すいません。二名なのですが、今からは入れますか?」

「ちょっと待ってくださいねー。……うん、ちょうど二人用のテーブルが空いていますので、そちらに案内させていただきますね」


 どうぞこちらへ、と笑顔で誘導を始める店員さん。俺たちはカルガモのようにその後ろをついていく。


「こちらになりますー」


 案内されたのは、店内のど真ん中にある二人用テーブル。


 そう、ど真ん中なのだ。他のお客さんに周囲を囲まれるように配置された、ある意味めちゃくちゃ目立つ特等席。はっきり言って、落ち着かない。


 恐れ戦く俺を余所に、双葉先輩は店員さんにお礼を言い、椅子に座る。俺だけうだうだしていてもしょうがないので、同じように椅子に座ることにした。


「さぁ、あまり長居はできないし、早めに選んでしまおう。北斗くんはどんなものが食べたいんだ?」

「そうっすねぇー。先輩のオススメってどれなんですか?」

「私のか? そうだな……無難になってしまうが、私的にはこのイチゴのショートケーキがおすすめだな」

「へぇー。かわいいですね」

「……おすすめを教えられた返答としてそれは正しいのか?」

「あ、すいません。イチゴのショートケーキが好きな双葉先輩かわいいなあって思って、つい」

「ひゅっ。……そ、そうか。そういうことなら、ありがたく受け取っておくぞ、うん」

「「「「(公衆の面前でイチャイチャすんな)」」」」


 何故か知らないが周りの客からめちゃくちゃ睨まれてる気がする。何か変な事でもしてしまっただろうか?


 双葉先輩もどういうわけか顔が赤いが、まあわざわざ指摘することでもないのでスルーする。


「じゃあ俺は双葉先輩おすすめのイチゴのショートケーキにしようかな。飲み物は無難にオレンジジュースで。先輩はどれにします?」

「私はこのブラウニーにするよ。新商品らしいからな。ちょっと気になる」

「飲み物はアイスコーヒーでいいですか? 双葉先輩、コーヒー好きでしたよね?」

「うむ」

「じゃあ注文しちゃいますね。すいませーん」


 店員さんに注文を伝え、先輩と駄弁ること約五分。


 注文の品が我らが卓に運ばれてきた。


「おおー、美味そう。あ、Twitterとインスタに上げたいんで、双葉先輩のも一緒に写真撮っていいっすか?」

「ああ、構わないぞ」

「ありがとうございまーす」


 あまり待たせるわけにはいかないので、料理をパパっと写真に収め、SNSへの投稿を済ませる。


 双葉先輩にブラウニーを返し、ようやく食事を開始した。


「うーん、美味しい。程よい甘さでいくらでも食べられそうっす」

「ふふん。そうだろうそうだろう。ここのショートケーキは特別美味しいんだ」

「なんで双葉先輩が自慢げなんですか」


 自分が作ったわけでもなかろうに。


 しかし、双葉先輩が自慢げになるぐらい、このショートケーキは本当に美味しい。ケーキの王様と言ってもいいコレがこんなに美味しいんなら、他の料理もさぞ美味しいに違いない。


 たとえば、双葉先輩が食べてるブラウニーとか……。


「…………」

「ん~♪ 初めて食べたが、こっちも中々にいけるではないか」

「……あの、双葉先輩」

「ふぁう? ふぉおひは?」


 口いっぱいにブラウニーを頬張るかわいらしい双葉先輩の姿を脳みその片隅に永久保存しつつ、俺は遠慮がちに言い放つ。


「よかったらなんですけど、そのブラウニー、一口だけもらえませんか?」

「……ほおん。北斗くんは意外と食い意地を張るタイプなんだな」

「やめてくださいよその顔。ちょっと気になっただけですってば」


 子ども扱いされてるみたいで落ち着かねえ。


「あっはっは。すまない。北斗くんの珍しい姿が見られたので、つい、な」


 そう言いながら、双葉先輩はブラウニーをひと口大に切り分け――


「はい、あーん」


 ――無邪気な笑顔でそれを俺に向かって差し出した。







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