それでさっそくその週の土曜日に、私は、ママに近所のペットショップにつれていってもらった。


 ペットショップには、いろいろな種類の動物がいた。

 私にとっては天国てんごくみたいなところだったけど、その日ばかりは、ほかの動物たちはひと通りちょっとチラ見したくらいで、インコたちを夢中むちゅうながめつづけた。


 そのペットショップはそこまで大きなお店じゃなかったけど、たくさんの種類のインコがいた。

 インコとは思えないくらい大きな子だったり、ずっとしゃべってる子や、にじみたいにカラフルな子や、フクロウ似の子だったり。

 まるでインコの世界に来たみたいで、ちょっと汗が出るくらいテンションがあがったっけ。


 ほんとうは自分でどの子にするか選びたかったけど、もう私は、降参こうさんするしかなかった。だって、みんなかわいくて、みんなつれて帰りたいくらいだったから。


 ママはよく、外でごはんを食べるときや買いものなんかで、なににするかまよう私に、冗談じょうだんっぽく「日が暮れちゃうわよー」なんて言うけど、……自分で思った、今日のやつは冗談じょうだんじゃすまないって。ひとりでまよってたら、今日どころか……死ぬまで終わらないって。


 というわけでママに相談そうだんしてみると、すぐに、店員さんに相談そうだんしてみなさいって答えが返ってきた。


 店員さんは近くに何人かいたけど、私はその人たちをスルーして、レジのなかにいた若い女の店員さんに声をかけた。

 なんでそんなことをしたかといえば、ほかの店員さんはみんな男の人で、しかも、みんな背がすごく高くて、このときの私には、ただそれだけで怖く感じて、どうしても話しかけることができなかったから。


 レジの店員さんは、ヤバいくらい美人な店員さんだった。なんか、見てるだけで、めっちゃなごんでいやされる気がした。

 声をかけて相談そうだんしてみると、おねえさんは、近くにいた男の店員さんの背中に、けっこう強めにネコパンチをしながら「チェンジで」って言うと、その人にレジをまかせて、私の相手をしてくれた。


 私の思いや希望、おねえさんの説明やおすすめ、ママのお財布さいふのこと、そんなのがいろいろぐるぐるした結果、セキセイインコにしようということにまとまった。

 セキセイインコは、人になつきやすいし、小さくていやすいから、初心者しょしんしゃにはおすすめで、なにより、よくしゃべってくれるからって。


 だけど、セキセイインコだけでもたくさんの子がいたから、私は、……まあたぶん、日は暮れるだろうなと思っていた。

 だけど、じっさいには、そうはならなかった。


 セキセイインコたちのゲージの前を行ったり来たりしていると、一羽いちわのセキセイインコが目にとまった。

 その子は、体がすごく小さくて、キレイな黄緑色をしていた。

 とくに派手はでってわけでもなくて、目をひくわけじゃなかったけど、いちばんセキセイインコっぽい感じがした。


 私が見つめると、そのインコはすぐに気がついて、私を見つめ返した。

 そして三秒くらいすると、頭をなんかいかゆらゆらさせて、うれしそうにはねをパタパタと振ってくれた。私には、それが、『ぼくを見て! ぼくがいちばん!』って言っているように思えた。


 おおげさだけど、なんだか運命うんめいを感じた。たぶんこういうのを『ひとめぼれ』っていうのかなって、私は思った。


 この小さい子にしたい、そうおねえさんに伝えると、ちょっとしぶい顔をされた。

 おねえさんが言うには、そのインコはメスで、メスのインコっていうのはみんながそうじゃないけど、オスに比べてあまりしゃべらない子が多いらしい。


 私は、それでもいいと思った。


 確かにたくさんしゃべる子がいいなって思っていたけど、そんなことより、私はもう、完全に彼女のとりこになっていた。見れば見るほど、この子しかいないって思えて。この子はずっと私を待っていたんだって。この子は私のところに来たがってるって。やっぱりこれは、運命うんめいの出会いなんだって。

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