ハケン

丸子稔

第1話 エロエロのレオ

 白の制服に、帽子、マスク姿の作業員たちが、コンベアーを挟んだ両側に配置され、黙々と作業している。

 コンベアーは全部で四本あり、狭い作業室の中に多くの人間が閉じ込められている光景は、ある種異様だ。

 その中でレオ・フェルナンデスだけは、持ち前の明るさと外国人特有の積極性から、いろんな女性社員に話し掛けていた。


「今日は暑いね」「今日の仕事はきついね」「仕事が終わった後、飲みに行きませんか?」


 レオが妻子持ちであることを、ほとんどの者が知っているため、彼の誘いに乗る者はまったくいなかった。


「レオ、一対一だと向こうも警戒するから、そういう時は俺を誘えばいいんだよ」


 レオと同じ派遣社員の協田実きょうだみのるは、イケメン且つ独身なため、正社員、パート、派遣社員すべての女性に人気がある。


「協田さんと一緒に行ったら、女性はみんな協田さんに夢中になるから、あまり行きたくないね」


「まあ、それは否定できないけど、このままだとレオの誘いに誰も乗ってこないぞ」


「それでも、協田さんと一緒に行くと、私がみじめな思いをするだけだから行きたくないです。あっ、そうだ! 坂川さんがいた。彼なら人畜無害だから、女性もまったく警戒しないです」


「人畜無害って……レオ、まだ日本に来て日が浅いのに、よくそんな言葉知ってるな」


「私、日本に来る前に、故郷のブラジルでとことん日本語の勉強をしたので、その辺の日本人よりは言葉を知ってるつもりです」


「へえー、そうなんだ。じゃあ、それを武器にして、女性を口説こうと思ってるのか?」


「そんなこと思ってないです。私はただ、いろんな女性と友達になりたいだけなんです」


「ブラジルなら、それも通用するかもしれないけど、日本だと結婚した後に異性の友達を作ることは、あまり良しとされていないんだ」


「どうしてですか?」


「パートナーが嫉妬するからだよ」


「私のワイフは、そんなことくらいでは嫉妬しません。なぜなら、私がワイフを心から愛していることを、彼女は知ってるからです」


「へえー、そうなんだ。まあ、それはいいとして、レオはなんでそんなに女性と友達になりたいんだ? 男性じゃダメなのか?」


「男性より女性の方が話してて楽しいからです。協田さんもそうでしょ?」


「それは相手によるだろ。気の合う人と話すのは男女関係なく楽しいし、逆の場合はまったく楽しくない。レオはそうじゃないのか?」


「私は気の合う男性と話すより、気の合わない女性と話す方が楽しいですね」


「なぜ?」


「話している時に、なぜこの人と気が合わないか考えるんです。その理由が明確になった瞬間、何とも言えない気持ちになるんです」


「なるほどな。気の合わない女性と話す時もそんな風に思えるなんて、レオは根っからの女好きなんだな」


「大抵の男はみんな女好きですよ。協田さんもそうでしょ?」


「まあな。ところで、さっき坂川さんを誘うって言ってたけど、彼を誘っても女性は乗ってこないと思うぞ」


「どうしてですか?」


「彼自身に男性としての魅力が欠けてるからだよ。そんな人と飲みに行っても、全然楽しくないからな」


「じゃあ、私は誰を誘えばいいんですか?」


「だから、さっきから言ってるように、俺と一緒に行けばいいんだよ。そしたら女性はいくらでも付いてくるし、もしかしたら友達になってくれる人もいるかもしれないぞ」


「友達になりたいのは山々だけど、協田さんの引き立て役にはなりたくありません!」


 レオはそう言い放つと、逃げるように去っていった。


─レオのやつ、引き立て役なんて言葉よく知ってるな。


 協田は心の中で感心しながら、逃げていくレオを見守っていた。

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