「それで、おれは帰って。


 お前が、言いたいこと全部書いたから絶対読んで、返事も書いて、って言ってた手紙を読んで。


 何回も読んで。

 読んで読んで。


 でもへとへとで、だから一回寝て。


 起きて。また読んで。

 ちゃんと飯も食って。


 こういうのって別に書かなくていいことなのか? でもおれは書いておきたいって思うから書く。お前の知らないことは全部書くって、おれは最初に書いたし。だから書いたところは、もう消さない。


 それで、お前の手紙だ。

 読んで思ったんだ。

 お前はやっぱすごいよ。

 おれはお前みたいに手紙じょうずに書くの、むりだって。

 でも書いてくれって言われたから、今こうやって書いてる。


 それで、ここからは今思ってることだ。やっと追いついたって、今おれは思った。お前がくれた手紙を読んで、読むまでにおれがやったこと全部書いて、それで、やっと今、追いついた。お前が書いた手紙に、おれがやっと追いついた。ってことは、お前の手紙は過去に書いたものなのに、言葉は全部おれより全然先に、だから未来にあったってことなんじゃないか? それに今やっとおれが追いついたのか? 


 それにおれはお前に追いつくためにあの日走って、いっぱい走って、それなのにお前になにも言えなくて、つまりおれは走ってたけど言葉は全然追いついてこなかったってことで、それがさっきこの手紙を書いてる中で追いついて、じゃあおれの言葉は、あのとき走ってたおれよりずっと過去にあったってことになるのか? それが今おれにやっと追いついたのか?


 おれは自分で思いついたのに、難しいって思うよ、こういうの。

 お前ならわかるのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る