「引っ越すこと、ほんとうにあの日はじめて知ったんだ。

 お前、まじでうまく隠してたんだな。


 昼飯食ってたら父さんがぽろっと言っちゃって。母さんが怒って。お前が口止めしてたんだよな。父さんはとっくに知ってると思ってたって慌てて、でもおれはそのときもう玄関に走り出してた。


 それで玄関出て。自転車乗って。走りだして。


 なに考えてたかあんまり覚えてない。多分怒ってたからだと思う。ふざけんなって言いに行こうとしてたんだろうって今は思う。ほんとうはどうだったかわからない。ていうかおれはこれから何人に怒ればいいんだ? 学校のやつとかもさ、みんなして隠してたのかな。


 でも、まあいいや。

 いまさらだし、いまちがうし。そういうの。


 だから走り出したおれのことを書く。あたりまえだけど、あんなに急いでお前の家行ったのはじめてだった。信号も人もあんなにじゃまだって思ったのもはじめてだった。休みだったけど、もう昼だったし、けっこう人もいて。おれはまだぜんぜん怒ってたし、走ってるともっともっといらいらしてきてさ。それでもなんとか無事に最後の曲がり角を曲がろうとしたところで。


 目の前を引っ越しのトラックがちょうど走ってった。

 お前の家から大通りに出るところ、あるだろ?

 あそこでちょうど。


 だから左に曲がればお前の家だったけどおれは急ブレーキかけてすぐ右に曲がって、横断歩道渡って、トラックを追いかけはじめたんだ。お前が乗ってるって思ったから。ちょっと離されてたけど、一回でも信号に引っかかってくれたらいけるなって思った。なのになんか引っかからなくってさ。相変わらず人も多いし、ぜんぜん追いつけなかった。そんなことしてるうちに高速道路に入る道に入ってっちゃって、うわ、くそ、むりだ、って。

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