13話 佑斗さんとのダイビング

「オーナー、『荻浦おぎうら』にはいつから潜って調査したらいいですか? 」

「え!? 蒔ちゃん。まだまだだよ。あそこの調査はもう少しエントリー口を整備した後でいいから。それに今はまだ漁協さんに事前許可を取らないと潜れないからね」


「蒔絵、じゃあ、もう少し俺の生物チェックに付き合わないか? 」

「それってナンパですか? 」


「ははははは。佑斗ひろとをフラないでくれよ。そいつは打たれ弱いんだから」


「オーナー! 」


「佑斗さん、いいですわよ。お付き合いいたしますわ」



今まで何度も潜ってきたこの『カシマダチ』

まるで初めて潜るような感覚だった。


それくらいに自分が一つの想いに凝り固まっていたのだと自覚した。

海の中では生物調査ダイブなのに佑斗さんがスレートにひとつひとつ生物の名前を書いて説明してくれた。


素晴らしいのはイッテンタカサゴの大きな群れが真ん中から割れるとそこからタカベの群れが溢れ出て来た光景だ。

私はこのひとつひとつの景色を写真ではなく自分の目に刻んでいきたいと思った。


そして数日後、佑斗さんは再び私を『身丈岩』に連れて行ってくれた。


30mオーバーの透明度にエンドブイからも『身丈岩』がはっきり見え、さらにはその奥にあるという『水門』という根さえも見通せた。


水深を下げていくとサクラハナダイがものすごい数で群れている。そして『身丈岩』の周りに巨大な魚が数匹じゃれ合っているのが見えた。


あれが『身丈岩』の主となっているカンパチだ。


大きく鋭いヒレが青い海を切り裂き、そして純白の身体はまるで光を放っているようにキラキラしている。

その姿、存在感は『威風堂々』という言葉こそ似つかわしい。


穏やかな日も、荒々しく潮が流れる日も、ここに居続けていた彼らは、開発が終わった後にはどこに行くのであろうか。


漁礁ではその迫力ある海の中、ひっそりと佇む黄色のイバラタツがぶら下がっている。


私は、海を見つめる。この景色を忘れない。


そして.... 私を見つめる佑斗さんにも気がついていた。



私、わかっています。いつも私を心配してくれているあなたの気持ちを。 ありがとう、佑斗さん..

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