10話 夕刻の涙

「ごめんよ、蒔ちゃん。君の事は次郎の葬儀の時に見かけていた。その君が岩の上に佇む姿に声をかけてあげる事ができなかった。そして4年もの間、岩に立つ君を放っておいてしまった。君は『青いトンネル』を探し続けていたのだろ? 」


「そんなファンタジーな話。それって次郎さんが例え話をしただけなんじゃないの? 私だって島でそんな話聞いたことないもの」


「俺も当然、岩の上から探したことはあるけど、見ることはなかったよ。琴子ちゃんの言う通り、あいつの例え話だったのかもしれない。でも、蒔ちゃんのどうしても確かめたいという気持ち、俺にはよくわかるんだ」


「蒔ちゃん、君自身は実際にそれを見たことあるのかい? 」


「見えないの.... 私には。どんなに毎年、岩の上に立っても見ることができなかった。そして、もう ..もうあの岩に立つことはできない! だって来年には工事が始まっちゃうじゃない!! 」


「だから蒔ちゃんは海に潜ってみたんだよね。それなら『青いトンネル』が何なのか潜って確かめようと」


「そんなの無駄だってわかってた.. でも、もう何をすればいいのか、私、わからなくて.... ごめんなさい。本当にごめんなさい」



「蒔ちゃん、残酷なこと言うけど、工事が無かったとして、君がどれだけ岩に立とうが、海に潜ろうが『青いトンネル』を見ることはできないと思うよ」


「 ..なんで.... 」


気が付けば私はセンターを飛び出していた。


・・・・・・

・・


お父さん....

オーナーにはっきり言われちゃった。


気が付けば岩の上に来ていた。

身体を横にして頬をつけると、夕暮れのやさしい香りがした。


「やっぱりここに来てたんだね」

佑斗ひろとさん.. 」




「 ....」


「.... 」




雲の向こうの夕焼けが紫色を帯び始めている。


「私、また、みんなに心配かけちゃったのかな.. ダメだな、私.... 」

「それってさ、みんな君が、す、 好きだって事じゃないのかな」


「佑斗さんてポジティブでやさしいんだね。ありがとう」

「 ..オーナーの言葉さ、きっと何か違う意味があるんだよ」


「ううん。あの言葉は私が目を背けていた言葉なの。あ~あ、言われちゃった.... 」

そう言うと涙がこぼれ落ちそうになった。


「ここにはさ、俺と蒔絵と海だけだから我慢することないよ」


私は佑斗さんの胸を借りて、思いっきり声を出して泣いた。


・・

・・・・・


夕焼けはすっかり海の中に消えて行った。


「佑斗さん、私、 私ね、見た事がなかったんじゃないの.... あの時、見ようとしなかったの」


私は、父とこの荻島おきしまに来た時の事を佑斗さんに聞いてもらった。

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