おとしもの

 『ふむ。やっぱり疲れるものだな』

「い、いったい何をしたんですか?」

『お前が言い訳に困ってたようだから、おまえの口を借りてしたまでだ』

「いや、言い訳って。いやいやいや、ありがたかったですけど。どうやってやったんです?」

『企業秘密』

「ええ?企業秘密??」

『冗談だ。うまく説明ができないが、“かわってやらないと”と思ったら、なぜか口が動かせたんだ。仕組みはわたしにもわからん』

「でも前に、私の身体を使ってどうのこうのすることはできないって、言ってましたよね?」

『ああ。できないと思っていたし、今もなぜできたかがわからん』

自分の身体なのに、どうなっているのか私にもさっぱりわからない。

 

 「それはそうと、やっぱり代替わりしてたんですね、桜の木」

『そうらしいな。あの女性が言ってた痛ましいことというのは、わたしのことだろうし』

みづきさん、あいかわらずクールだ。

自分が当事者だというのに。

そういえば木のことはわかったけれど、ブローチ見つからなかったな。

そう考えていたら、みづきさんが言った。

『明日、もう一度ここに来てもらってもいいか?』

「もちろんだよ。気になるところは全部探したいもん」

 

 翌日、私はまた桜の木の下にいた。

今日は、昨夜のうちにみづきさんと打ち合わせているから準備万端だ。

打合せ内容は、こんな感じ。

①探し物をしていること

②失くしたのは三十年くらい前、まだ子供だった私の母親

③なくしたのはブローチで、持ち主は母の姉

④トンボの形だったから、桜の花びらと一緒に飛ばそうと遊んでて、どこかに行ってしまった

こんなで大丈夫とは思ってないけれど、うろうろ探してて不審者と思われるよりはマシだよね。

私のかあさんが“おっちょこちょい”なのが気になるけれど、真実をいうわけにはいかないから仕方がないか。

 

 今日は桜の木から少し離れた塀の近くを、地面からの立ち上がり部分や透かしブロックの中を覗いたりしながら歩き回った。

正直に言うと、探し回っているをしていた。

また昨日の女性が声をかけてくれることを期待して。

考えたのは、もちろんみづきさんだけど、別の人でも大丈夫。

昨日の会話はちゃんと覚えているから、ちゃんとつじつまは合わせられるもの。

「あら?あなた、昨日も会ったわよね」

後ろから、声をかけられた。

期待した通り、昨日と同じ女性だ。

私は驚いたふりをしながら、振り返った。

「え?あ、はい」

「今日は、どうしたの?なにか探しているみたいだったけど?」

私は“作戦開始”とばかりに、その女性に向かって話しはじめた。

 


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