第54話 ノナですが、いつの間にかあたしたち悪の大幹部です


 え~、こちら現場のノナです。

 本日は四天王の初仕事として、王都の皆さんに魔王ガイの究極虐待計画を発表する事になってます。


 ……とっても恥ずかしい四天王衣装を着て!!

 よく見ると白いインナーが胸の谷間を隠してくれてるし、きわどい角度をしていたお尻とかお腹部分はスパッツでカバーされているけどもっ!


『ふむ……露出が多すぎて領民共を喜ばせてしまったのは誤算だったな!』

『気持ち露出を少なくしてやったぞ! ……なんかムカついたからな!』


 大事な可愛い四天王がジロジロ見られるのはムカつく。

 その気配りは嬉しいけれど、それならいつもの可愛い神官衣装を着させてよおっ!


 多少露出は減ったとはいえ、恥ずかしいことに変わりはないのだ。


(ノナちゃん、行くよ?)


 レナ姉が目配せを送ってくる。


 ああもう、やるわよっ!

 レナ姉とふたりで、本調子じゃないガイを支えるって誓ったんだ。


 あたしは羞恥心をかなぐり捨てると、腰に下げた鞭を取り出し大きく振りかぶる。


 ぺしん!


「けーちゅーっ!! それとせーしゅくにせぬかっ!」


 おおおおっ


 なぜかどよめく王都の皆さん。


「ほう、ノナのヤツ……鞭を使うとはやるな!!

 鞭は被虐の象徴……領民共も自分たちの立場を痛感しただろうぜ!」


 はっ!?

 しまった……予定にないことを。


 ぱぱっ


 あたしが顔を真っ赤にしていると、空中の魔法映像が切り替わる。


『王国住人全員に、月額1万センドの手当を支給する→王国内で利用できる飲食クーポン付き!』

『使い切らないヤツは罰金とする!!』


「「うおおおおおおおっ!?」」


 映し出された”虐待の御触れ”に驚きの声を上げる皆さん。

 それは仕方ないだろう。

 王都の一般的なご家庭の月収が5,000センドほど。

 月額1万センドはフツーに遊んで暮らせる金額だ。


 あたしは顔を真っ赤にしたまま、虐待の詳細を説明する。


「え~、弊社マオーメタルが受け取った帝国からの配当金が多すぎるのでばら撒いてやるぜ!

 怠惰の地獄に落ちたお前たちは国ごとくそにーとになるのだ!

 だが、もしこの金を元手に商売を始めたいという反骨心のある者は申し出よ!」


「運転資金を強制的に貸し付けてやる!

 利子は10日で0.01%という超高利貸し!

 ふん、挑んでくる骨のあるやつはいないだろうがな!!

 ……とのことです」


「「うっ……うおおおおおおおぉ!!」」

「ガイ様! 申請はいつから受け付けてますか!?」

「ああっ、これでわたしたちの夢がかなうのね!」

「うわあああああっ、感無量だぁ!!」


「くっくっく、地獄絵図だな!!」


「えっと……まあいいや」


 感動で泣き崩れる王都民さんたちを愉悦の表情で見下ろすガイ。

 いつもの事なので放っておく。


「くっくっく、まだまだこれだけではないぞ~!!

 第二弾!!」


「に、にだ~ん!」


 ぴしゃ~っ!


 レナ姉の口上に合わせ、追加の雷撃魔法を発動させる。

 それと同時に切り替わる魔法映像。


 ぱぱっ!


「「な、なんだ!?」」


 空中に浮かび上がったのはジール王国の地図。


 地図上の数十カ所に光の矢が刺さり、炎が燃え上がる。


「「うわっ!?」」


「いま燃え上がった場所に、魔王軍強制洗脳学院を設立する~っ!」


「せ、洗脳だって!?」

「や、ヤバい場所なのかしら!?」


 ずびしっ、と空中の地図を指さしたレナ姉が発した不穏なセリフに、不安そうな表情を浮かべる人もいる。


「さよ~うっ!」

「洗脳学院では初等教育から高等教育……果ては冒険者スキル教育まで無料で受けさせてやるっ!」


「「ええっ!?」」


 ノリノリなレナ姉の言葉に驚く人たち。


「そ、それだけじゃないぞ!」


 あたしはレナ姉の説明を引き継ぐ。


「建設予定地の土地は、相場の2割増しの代金で強制的に徴用されます。

 魔王軍の名のもとに断ることは原則認めないのでそのつもりで!!」


「……あんな田舎の山を買ってくれるのか?」


 呆然と立ち尽くす土地所有者と思わしきおじさん。

 学院には広大な訓練所が併設されるからね。

 街から離れた郊外に建設されるのは仕方がない。


「魔王軍強制洗脳学院の制服はこちらっ♪」


 しゅばばばっ!


 レナ姉の言葉に合わせ、足元に置いていた制服に早着替えする。

 レナ姉が着ているのは青と黒を基調としたブレザー。

 インナーはチェックのシャツになっており、とってもおしゃれな男の子の制服。


 あたしが着ているのは白とピンクを基調としたセーラー服っていうのかな?

 船乗りさんの服を参考にした女子制服。

 ふわりと広がるプリーツスカートにはピンクのラインが入っていてとてもかわいい。

 足元は真っ白なスニーカーだ。


「「わああああっ、かわいいっ!」」

「む、娘に着せたい……いやむしろ自分が!」

「いやお前、歳を考えろ……ぶはっ!?」


 ふふふ、このせーふくはあたしとレナ姉で考えた自信作だったりするので。

 何よりようやく悪の四天王衣装から解放されたあたしはご機嫌でポーズを取る。


「さらにさらに! 各街に競馬場、カジノなどの娯楽施設が整備されるぞ~!」

「骨抜きにしてやるっ!」


「「うおっ……うおおおおおおおおおおおおおっ!?」」


 王国民さんたちの熱狂はとどまるところを知らなかった。



 ***  ***


「くくっ……素晴らしい!!」


 俺は目の前で繰り広げられる地獄絵図にあるれるほどの愉悦を覚えていた。

 愛らしいレナノナから放たれる残酷な虐待!!

 完璧な極悪魔王スタイルな俺では実現不可能なギャップ!!

 やはり二人は最高だ!


 一生……いや来世もその次も俺の元で……。


 だきっ


「「あ……」」


 俺の身体を突き動かす未知の衝動に任せ、二人の肩を優しく抱く。


「「うおおおおおおっ、魔王ガイ様ばんざーい!!」」


 やけくそ気味に放たれる領民共の叫び。

 心地よいそれを聞きながら、俺は魔族人生最高の愉悦を味わうのだった。

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