第13話 魔王俺、無力な村人を犬小屋に押し込む暴挙(後編)

 

(ぬぅ……絶対コイツ、ユニークだ)


 犬小屋を錬成するために集中していた俺を突然殴りつけて来たノナ。

 内心を悟られないように魔眼で睨みつけてしまったが、俺はかなり動揺していた。


 毛ほどのダメージもなかったとはいえ、”ギアス”の魔術を掛けたはずのノナが俺に危害?を加えてきたのだ。


(Gランク世界と聞いていたが……世の中は広いな)


 ま、まあいい。

 時間はたっぷりとある。

 調査は後でゆっくりするとして、”犬小屋”の錬成の続きだ。


「さっきの衝撃で術式に影響が出てなきゃいいが……一つ間違えると村ごと吹き飛ぶかもな?」


「え、ええええっ!?」


 ノナが真っ青な顔をして震えているが、もちろん冗談だ。

 俺様の魔術がそんなにヤワなわけねェ!

 リアクションが面白いので少し脅かしてやったのだ。


「おっ、来たな!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴ……


 先ほどの”演出”で呼び出しておいた上空の暗雲が大きく渦を巻き始める。

 犬小屋の材料は魔界から召喚する必要があるのだ。


「来い! 魔棲塊!」


 俺が両手を広げると、無数の黒点が雲の下に出現する。

 黒点は莫大な俺の魔力を吸い込みどんどん成長する。


「おい人間共! 危ねえから広場の中心に避難しな!」


「「うわっ?」」


 いう事を聞かない連中もいたので、転移魔法で強制的に広場に集めてやった。


「くくっ……お前ら、恐怖に慄くがいい!」


 ご、ごくっ!


 息を飲み、上空を見上げる村人たちの視線の先で、黒点はさらに成長し建物の形になる。


「ふ、ふおっ? あれが犬小屋?」


「……でかくね?」


 その通り!

 15mヘルハウンドがギリギリ入る、極小サイズの犬小屋だぜぇ!!


「はあっ!」


 広げた両手を閉じると、錬成を終えた建物が次々と地上に落ちてくる。


 ドドドドドドドッ!!


「説明しよう!!」


「「!?!?」」


 周囲を圧する轟音にも負けない俺の声に、一斉にこちらに注目する村人たち。


「お前たちは通気性の高い涼しい家に慣れてただろうが!!」


 ドンッ!


 広場の傍、ちょうど村人たちの正面に落ちてきた建物をびしりと指さす。

 漆黒の外壁がギラリと光る。


「魔界最高品質の黒曜石で出来た外壁は厚さ30センチ以上!

 ドラゴンの打撃やブレスにもびくともしねえことはもちろんだが……通気性は皆無!

 例えば暖炉で一度暖めれば72時間はそのままだ!」


「「うおおお!?」」


 ヘルハウンドは急な温度変化に弱いからな!!

 犬小屋として必要な機能だぜ!

 冬は暖かく、夏は涼しく。

 季節感が崩壊し、人間共の精神も崩壊だ!


「こ、これで冬に凍えることもなくなるのか!?」

「薪も節約できるわね!!」


 ちっ、さすがこの世界の住人ども。

 強がりにおいては一流だぜ。

 だが、この犬小屋はそれだけじゃねぇ!


「特殊な術式が組み込まれていて、空気中から水を取り出すことが出来る。

 その量は僅か1日500リットル!!」


「「うおおお!?」」


 ヘルハウンドはつねに炎を発しているので冷却のために水が必要なのだ。

 恐らくこの村の連中は近くの湖まで水を汲みに行ってるはずだ。

 運動の機会を奪い、足腰を弱らせてやる!!


「うそ!? これで危険を冒して飲み水を汲みに行かなくていいのね……!」

「ああ、なんて素晴らしいんだ!」

「レティさんにこの光景を見せて上げたかったな……」


 なぜか目を潤ませ、感動のポーズを取る村人AとB。


 なにっ!?

 ここまでペット扱いされて動じないだと!


 だが、だがな!

 最後の仕打ちにお前たちは耐えられるかな!


「最後に……お前たちが使っていたおんぼろなタンスは中身も含めてそのままにしておいたぜ!」


 どうだ!

 スタイリッシュな黒い外壁に似合わないボロイ家具!


 魔界の業者に頼めば色彩を統一した家具を備え付けてくれるところだが、俺はそんなに優しくねェ!!

 ベッドだけはふかふかのマットレスに変えてやったがな!


 硬い木の板の上に寝て、腰を鍛えていた連中だ。

 腰の違和感に苦しむがいいぜ!


「ななっ!? 大事な家財道具はそのままじゃないか!」

「みてあなた! なんてふわふわなベッドなの! ずっと悩まされていた腰痛ともおさらばだわ!」

「すげぇ! 中もなんて広いんだ!」

「2階もあるぞっ!」


「「うおおおおおおおおおおおおおっ!?」」


 ……おかしい。

 住み慣れた通気性抜群の家を奪われ、犬小屋 (魔獣ヘルハウンド規格)に押し込まれたというのに、涙を流して喜ぶ村人たち。


 こ、こいつら全員ヤバい奴なのか!?


「マジで言ってますかガイおにーさん……」

「やっぱコイツ変なヤツだわ」


 人生最大の衝撃に打ち震える俺に、なぜか呆れた視線を寄こすレナとノナなのであった。

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