第4戦 様銀二の限界

 ピーッ。


 ホイッスルが鳴った。


 スパーン、バリィ!


 「勝者、様銀二!」


 その声を聞いた途端、グラリと眩暈がする。


 「うお……、これはまずいかも。」


 「棄権して! 様銀二君!

 試合中の電極交換は故障以外認められていないの!

 しかも電極の種類の交換は故障でも禁止!

 無理だよ!」


 そうか、じゃあ単純な話になるよな。


 部長がじわじわ理性を失っていくか。


 僕がここで倒れるか分からないかもしれない賭けをするか、だ。


 倒れなきゃ大団円だろ?


 ピーッ。


 スパーン、バリィ!


 「勝者、様銀二!」


 最早当たり前になりつつある無双で観客が沸いている。


 一発打つごとに身体から力を抜かれている気がする。


 そうか、これが一般人から見たFLマイト電極の危険性か。


 27戦してきたんだ、無理も出るだろう。


 本来なら5人で分散して一校を撃破するところ、三校を一人でぶち抜いてきたんだからね。


 なんか、こうアニメで見るような技っぽい技ないかな。


 「何で止まってくれないのよ、様銀二君!

 タオル投げちゃうよ!?」


 「審判、タイムってどれくらいあります?」


 「3分です。」


 「ちょいタイムで。」


 「認めます。」


 肩で息を切らせながらベンチに戻る。


 「棄権しよう、様銀二君。

 賞金自体は無くならないし、減額もされない。

 750万円も一人で勝ち取ったんだよ?

 私、びっくりだよ。」


 「樹里菜先輩。」


 「なに?」


 「一勝でもしたらお願い聞いてくれるんでしたよね?」


 「そ、それは……。」


 「超電磁テニスで何か技らしい技、無いですか。

 FLマイト電極でも威力を減少できそうな技。」


 「3分で!?」


 「要領だけでいいです、後は体で探ります。」


 「そ、そんな!」


 「先輩、時間が無いです。」


 「……分かった。

 今までの様銀二君がFLマイト電極で戦ってきてたのは無意識だろうけど、ホワイトフルムーンって技を使ってた。

 これは威力を上げた上で相手に視認される技。」


 「ん? その言いようですと。」


 「そう、威力を下げた上で相手に見えない技がある。

 それがブラックフィルムーン。

 打ち方は」


 ピーッ。


 「時間です、様銀二選手コートへ!」


 「嘘!?」


 「先輩、ありがとうございます。

 僕、やってきます。」


 「まだ何も……!」


 「行ってきます。」


 コートに戻る様銀二。


 「タイムを取ったという事は限界が近いのかな?

 今までと違って疲労の色が見えるよ。」


 「確かに、疲れたですね。

 まぁ30戦目のシュートでも見て下さいよ。」


 スゥ、とラケットを後方へ振る。


 「今だ!」


 ゆっくりとラケットを振り抜く。


 バリィ!


 「勝者、様銀二!」


 「え? 球、飛んできたかい?

 あ、焦げ目がついている。

 まさか……、ブラックフィルムーンの相談でもしてたんじゃ……!?

 というか、相談で技が打てるってどういう運動神経してるんだ……!?」


 次鋒。


 バリィ!


 「勝者、様銀二!」


 「ダメだ! ブラックフィルムーン何て打てる奴自体がおかしい!

 見えないよ!」


 「少しは疲れの奪われ度が減ったな、これなら持つかも……な?」


 バリィ!


 「勝者、様銀二!」


 「やっぱりダメだ! 山勘じゃ当たらない!

 大将! 後は任せました!」


 バリィ!


 「勝者、様銀二!」


 急遽変更、大将。


 「ここでお前に勝てば優勝なんだ!

 一人で抜かせるスポーツであってたまるか!」


 じゃんけんに敗北。


 相手の手元を見るとFLマイト電極!?


 「あ、FLマイト電極……。」


 「三戦で終わらせてやる!」


 「あ、どうも。」


 ピーッ。


 相手が打つ。


 今までよりちょっと速いくらいだな。


 スパーン!バリィ!


 「FLマイト電極だぞ!? 打ち返すのかよ!」


 「サーブ貰いー。」


 バリィ!


 「ダメだ、ブラックフィルムーンの使い手自体がまずいない!

 こんな瞬間に見せられて対処できるかよ!」


 バリィ!


 ピーッ。


 「試合終了! 優勝者、公 様銀二!」


 「うあー、きっつ……。

 死ななかったのは先輩に感謝だなー……。」


 「きゃー! やったぁ! 様銀二君、優勝だー!

 1000万円だよ!?

 すごーい!」


 「先輩! この賞金を部長に、後は任せました。」


 「え? 少しは欲しいとか無いの?」


 「万が一余ったら考えます、じゃあ自分は帰りま……」


 グラリと激しい眩暈がする。


 「うあ、ここで倒れたらダサい……。」


 倒れそうな身体を立て直してその場を立ち去る。


 後の事を任せるだけでもカッコ悪いのに。


 家まで気合だった。


 でも家に着いて施錠してから記憶にない。


 このバリバリ痺れるこの身体でも役に立つことがあってよかった。

 

 まぁここいらで限界だな。


 よく、頑張ったな、自分。

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