第3話 スター・ライトは戦闘する!
「ライトが扉を開くと、そこには一匹の
「勿論、やっつけるに決まってる!」
「じゃあ、イニシアティブの判定……ね」
と、しおんはサイコロを二つ転がす。赤い6面体が敵のサイコロ、青が僕のサイコロを意味している。
数値は、3と5。青が大きい。
「イニシアティブに勝ったわ。先制攻撃が可能よ」
「じゃあ、ショートソードで攻撃だ」
「なら、命中判定、ね」
そう言って、しおんは再びサイコロを振る。
ショートソードの一撃が命中! 僕は、一刀で
「やった。やっつけた!」
少し、上機嫌になる。しおんはそんな僕に、微笑混じりで小さく頷いた。
いつのまにか、しおんの喋り方は流暢で、
「『お兄ちゃん、怖かったよう』そう言って、プラチナがライト君に泣き縋ります」
しおんが、プラチナになり切って言う。仕草や手振りを交え、中々、芝居上手である。
「ああ。怖かったよね。すぐに逃げよう!」
僕はプラチナの手を引いて、家を飛び出した。直後、しおんがサイコロを振り、何かを判定する。
「ライト君が飛び出そうとした瞬間です。外から、一匹の
「え? いきなり
「じゃあ、判定してみる?」
しおんはサイコロを振る。だが、数値は目標値に達しなかった。
「『お兄ちゃん、助けて! お兄ちゃん、お兄ちゃん!』泣き叫ぶプラチナを、紅い眼の
「……くそ!」
「ふふ。早速、嵌ったわね。でもこれで、オープニングはおしまい、よ」
しおんが悪戯めいた微笑を浮かべる。その言葉通り、僕はいつの間にか、ゲームの世界に引き込まれ、のめり込んでいた。
「これから、どうなるのかな?」
「ここからが本番よ。ライト君は焼け死ぬ寸前で、エルフ仲間に助け出されました。両親は魔物の群れに殺されて、妹のプラチナは
「勿論、助け出すよ。プラチナを。こうやって、冒険に出かけるって訳だね。じゃあ、近くに冒険者ギルドでもあるのかな?」
「正解。エルフの集落から徒歩二時間の所には、大きな人間の街があります。そこで装備を整えるも良し、仲間を集めて体制を立て直すも良し。全ては
「ん? 今……その」
「え?」
「僕の事、名前で呼んだね。
「あ。ごめんなさい。馴れ馴れしく、して」
「ううん。良いよ。彦星って呼んで欲しい。だから……」
「だか、ら?」
「君の事も名前で呼んでいいかな? そ、その、しおん。って」
僕は勇気を出して言う。目の前には、赤面して挙動不審になっているしおんの顔。それがあまりにも可愛らしかったので、僕はもう少しだけ、強気になれた。
「駄目、かな? しおん」
「きゃ。あ、その……駄目じゃない、よ。その、これからもよろしくね。彦星、君」
「うん。よろしくね。しおん」
言葉を交わし、小指がサイコロに触れる。20面体のサイコロは転がって、20を表示する。
「あ、続き」僕は言う。
「そ、そうね。続けましょう」しおんは照れながら言う。
こうして、僕等は再び、異世界へと浸る。
しおんも、再びエルフの族長になりきって、状況説明を開始した。
⚃
しおん、否、族長の話はこうだ。
スター・ライトが暮らすエルフの森には、魔王軍の襲撃があった。
魔王の軍団は、悪い魔法使い、
ちなみに、妹のプラチナは特殊な血液型の持ち主であり、剣に次ぐ、第二の侵攻目標だった。このままでは、まず、間違いなくプラチナは魔王ポルノスキーへと差し出され、血を吸われて殺されてしまうだろう。プラチナを
「ん? じゃあ、ピンサローって
「そう。伝説の吸血鬼ポルノスキーが魔王。で、ピンサローは六大軍団長に次ぐ実力者よ」
「なんとなく状況は分った。じゃあ、早速装備を整えて、プラチナの救出に向かうよ」
「ええ。それならば、半焼した自宅で装備を整えると良いわ」
「うん。物置小屋が燃えなくて助かった」
僕はしおんと言葉を交わし、キャラクターシートにアイテムを書き込んでゆく。
エルフの里で得た道具は、一振りのショートソード、皮鎧、四日分の保存食、狩猟弓と、20本の矢。それと、120ゴールドのお金だ。初期装備と必須アイテムが一通り揃った。
あとは、仲間か。
こうして、スター・ライトは旅立った。
さしあたっての目的地は、近隣の人間の街である。その街の冒険者ギルドで仲間を集め、ピンサローに戦いを挑む算段だ。
そんな風に、僕はいつの間にか、完全にスター・ライトとして考え、行動していた。
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