芽衣川さんは攻略できない。

猫とホウキ

前編 誤審判団オールスター野球

第1話 ごく普通の野球ゲームですよ?

「なんか面白いゲームはないでしょうか? 姉様」


「朝から晩まで、毎日ゴロゴロしてばかり。本当に屑みたいな妹ですね、あなたは」


 わたくしの名は佐々さつさ夏希なつき。今年で21歳になる無職女ろうにんせいです。実家にいると両親より厳しい視線を浴びまくるため、一人暮らしをしている姉様しゃかいじんの家で居候かじてつだいをしながら、ゲームべんきょうに励む日々を送っています。


「そんなこと言わないでくださいませ。ほら、猫ちゃんはなにもしなくても愛でてもらえるじゃないですか。わたくしだって猫ちゃんみたいに可愛いわけですし、わたくしばかりが屑扱いされるのは納得がいきませんわ」


「あなたは可愛くないので、その論理は誤りFalseですよ」


 姉様は見下すような視線をくださったあと、「でもちょうど良いゲームがありますね」と、とあるパッケージ版のゲームソフトをわたくしに投げつけてきました。


「話題のクソゲーです。たぶん面白いですよ」


「クソゲーで話題になっている時点で、たぶんクソゲーなのですわ?」


「クソみたいな妹にはクソゲーがお似合いです。この論理は正しいTrue


 なにも言い返せず、わたくしはしくしくと泣きながら嘘泣きしながら、でも言われるままにそのゲームを始めることにしました。


 ちなみに姉様は趣味でゲーム実況動画の配信なんてものを嗜んでおりまして、そのネタにするという意味も込めて、わたくしにゲームを渡したのです。『ニートの妹にクソゲーをやらせてみた』とか、そんな動画タイトルを付けるのでしょうね!



***



 姉様より渡されたのは、野球ゲームでした。オーソドックスな対戦システム(パワ○ロでもファミ○タでも想像してくださってくれれば幸いです)で、自身と相手プレイヤー(またはCPU)が『攻撃側』『守備側』に分かれ、攻撃側はバッターとランナーを操作、守備側はピッチャーと守備の選手を操作し、攻守を交代しながら野球の試合を進めるというものです。


 なにより気になるのはそのタイトル。『誤審判団オールスター野球』って、なんなのでしょうか。選手じゃなくて審判団がオールスター?


 とにかく始めてみないことには分かりません。わたくしはゲーム機の実況モードをONにして、まずは対戦モードをやってみました。



***



※以下、ゲーム実況。


 はい、みなさまこんにちはですの。わたくしはこれから『誤審判団オールスター野球』というゲームを実況プレイいたしますわ。


 チャレンジモードや育成モードなどもあるようですが、まずはCPUとの対戦モードを選びました。さてチーム選択ですが、暗黒ツバメーズを使いますわ。相手はランダムのようですわね……あ、タコヤキニャンニャンズに決まりました。


 次にルール選択画面が表示されましたわ。えー、試合は9回までで、CPUの強さは『普通』で──いえ、『強い』にしておきましょうか。リクエスト回数……リクエスト回数? 必要なのでしょうか。よく分かりませんわね、でもデフォルトが2回なので2回にしましょうか。あとは審判の調子? なんですかこれ。とりあえず『絶好調』にしておきます。


 スターティングメンバーは、デフォルトのままにしましょう。4番に村神様がいますし、ピッチャーも好調マークが付いています。他はよく分かりませんけど、たぶん強いですわ。


 さあ、プレイボールです。相手が先攻、わたくしは後攻のようですわね。それでは試合の様子をお送りいたしますわ。

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