趣味探しを無双せよ5


 イチャイチャしてたしかめてみる。


 そう決めてすぐにチャンスがやってきた。


「ねえ、沢谷くん、もうプッシュは飽きちゃったよぉ」


 と言ってきた七海さんにあえて雑に教えることに決める。


 俺は自分のスケボーにのり、テールを踏んで、ノーズを浮かせる。そして、右に地面について、今度は左、そして今度は右へと浮かせる着地させるを続ける。そうするとスケボーは遠心力に振られて、推進力を産み、前へ前へと進む。


「え、すご、地面蹴ってないのに進んでる!」


 くるり、とターンを決めてまた戻ってくる。


「チクタク、って技だよ。プッシュの次はこれだから、七瀬さんやってみて」


「わかった、どうやるの?」


「さっき見たでしょ、真似といて。さ、氷室さん、プッシュの時だけど……」


 と氷室さんの手を取る。


「うひえ、沢谷くん!?」


「ハハ、こっちも恥ずかしいんだから照れないでくれるかな?」


「ええ!?」


「慣れるまでは、こうして手でバランスをとって……」


 と色気あるボイスで囁く。


「う、うぅ、ドキドキさせる天才かぁ?」


「それは氷室さんの方こそ、だよ?」


 月9俳優の如くキラっとそう言った時、ピキッ、と空気が凍った。


 七瀬さんから発せられる黒いモヤ。それが天に上ると暗雲が押し寄せてきて、ピシャッ、と雷が落ちた。


 いや落ちていない。だけどそれくらいの雰囲気が七瀬さんにはあった。


 はい、しゅーりょー。検証しゅーりょー。そして人生しゅーりょー。


「今何をしたのかな? ちょっと理解できなかったんだけど?」


「じょ、冗談だよ〜! 恋人ノリ、みたいな?」


「ええ、なんだぁ〜、ノリかぁ〜」


「そうそう、ただのノリだからさ!」


「えー、じゃーあー、私もノリしたーい!」


「いいよ〜、何ノリ〜?」


「監禁ノリしたーい!」


 はっはっは、それはノリの軽さが全くないなぁ……まじで。


「あ、あの、陽南乃ちゃん?」


「ん? 何、氷室さん?」


「私、その、嫌じゃなかったから、怒らないでも大丈夫だよ?」


 ナイスフォロー! 熱された油に水を注ぐが如くのフォローだ!


「へぇ〜、そっかぁ〜。気づいていないフリしてたけど、もう無理だぁ〜」


 そう言って七瀬さんはニコニコ笑顔を浮かべた。


「ちょっとお話したいから、くる……沢谷くん借りるね?」


「え、うん」


「ありがと、氷室さん。じゃ、行こっか、くるみ?」


「いや……」


「行こっか?」


「はい……」


 恐ろしい笑顔につい頷いてしまう。


 そうして手を引かれて、女子更衣室に連れ込まれる。


 かちゃり、と鍵をかけ、七瀬さんはドアの前に立った。


「あの、こういことしちゃまずいと思うんだけど」


 独占利用はまずいけれど、実際は何とかなる。ここのオーナーはスケボーを簡単に貸してくれるほど、刈谷に恩がある。いわば身内、謝れば許してもらえるだろうけど、そのことは絶対に話すまい。


「そうだね、早く場所を移さないとね」


「うん! そうしよう!」


「その前にさ、ねえ、くるみ? 色々と聞きたいことがあるんだけど?」


 七瀬さんが胸に妖しくのの字を書いてきて、全身から冷や汗が出る。


「さっきからくるみって誰のこと?」


 俺は平静を装ってそう言うと、七瀬さんの肉食獣の瞳がきらりと光った。


「くるみ、果物を誰って言ってる時点で察するねえ?」


「あっ、えっと……」


「確定したね。普通、そこでは詰まらない、そんな反応にはならない。私は呼びかける時にくるみって言ってたから、誰って思ってもおかしくない。なのに、そういった言葉が出ずに、あ、と声が詰まった。そして、言い訳を考えるのに、えっと、と目をそらした」


 やばっ、と思った時、急に背中に腕を回され、鳩尾のあたり柔らかい感触がきて、そして、引き寄せられた勢いで後ろに倒れる。


 鯖折り。そしてそのままマウントポジションをとられる。


 見上げると情欲に満ち満ちた熱っぽい顔。


 昏い、昏い愛情を感じさせる、濃い甘い香りが立ち込める。


「さあ、くるみ。まずは、色々聞かせてもらおっか?」


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