side 七瀬陽南乃3

糺乃樹来さまの自主企画より、すごくすごく可愛いキャラクターイラストを頂きました! よろしければ!

https://kakuyomu.jp/users/kitatu/news/16817330647770688637


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 部屋の中、自分でもわかるほど、むわっと甘い香りが立ち込めている。


「ふー、ふー……」


 全身が疼く。甘いそわつきが身体中を巡って、堪えるだけで息が荒いで荒いで仕方ない。欲して手が伸びそうになるが、腕を掴んで必死に我慢する。シーツを噛み、勝手にこすり合わせようとする太ももを何とか嗜める。


 苦しい、頭がおかしくなりそうだ。


 今日、雪菜と刈谷くんと放課後遊んだ。そしてボーリングで助けられてしまった。


 そう助けられてしまった。


 そこに、なんでもないよ、と言ったふうの安心感を見た。


 その安心感はくるみと同じものだと感じた。


 だから、格好良かった、胸がキュンとした、切ない気持ちになった。そして、くるみの安心感に再び触れたことで、甘い気持ちが抑えきれなくなっている。


 だけど、必死で堪えている。


 私の直感は、刈谷くんとくるみが同一人物だ、と結論を下している。ナンパを助けられたことは何度もあるが、こんな感情になったのはくるみと刈谷くんだけ。本能が、身体が、求めて求めて仕方ない。


 とは言え、刈谷くんはオフ会の日、美容院にいたという証拠がある。


「理性では、くっ、別人、なのは、わかる」


 なのに、直感が、本能が、刈谷くんはくるみだ、と、くるみを欲して体を疼かせてくる。


 きっとそれは、くるみを求める気持ちが強すぎて、代替品でも使え、という脳からの指示だ。


 私はそんな指示には屈さない。


 くるみじゃないとダメなんだ。他の誰でもなく、くるみでないと嫌なんだ。


 刈谷くんのことは嫌いではない。むしろ好ましいと言っていい。


 だが、耽ることは、くるみ以外に身を穢されることと同じ。猛烈な嫌悪感と拒否感がある。


「くるしぃ、くるしぃよぉ、くるみ……」


 本能が容赦無く襲ってくる。快感を求める甘い疼きは、太陽が照りつけ蜃気楼がゆらめく砂漠で水を欲するような強さがある。あまりに切なく、堪えているだけで、涙がこぼれた。


 こんなに苦しい思いをさせているのだから、もう許さない。くるみと会えたら、我慢のがの字もしてやらない。泣いて叫んでも許さない。手錠して、馬乗りで、情け容赦なく、私が満足するまでする。だけじゃ足りない、ちょっとでも不満を感じたらするを一生続ける。


 そう考えたら、余計体が熱く息が荒いできた。だけど欲望に、口元は弛む。


 満足させてくれるのだから、こっちも満足させてあげたい。料理でも会話でもお金でも、なんでも笑顔を作ってあげたい。辛い時は慰めてあげたい、苦しい時は支えるか代わってあげたい病めるときも健やかなるときも、尽くして尽くして尽くしてあげたい。普通の彼氏彼女でもいたい。一緒にゲームしたい、ゲームしているところを見たい、見てもらいたい。勉強を教えたい、教えてもらいたい、ドキドキしすぎて勉強に集中できなくなりたい。スポーツだってしたい、ラリーしたり、ペア組んだり、1on1をしたい。上手くても上手くなくても、白熱してもふざけても、応援してもされても、全てをしたい。デートも沢山したい、ウインドウショッピングもネットウインドウショッピングも、キャンプや山登り、本屋巡りに温泉旅行。プールに海も、山も川も全部行きたい。外食だっていろいろ行きたい、良いとこも安いとこも、美味しいとこも不味いとこもいきたい。常に二人でいたい。色んなところ行ってドキドキして、適当に遊んでころころ笑って、会話がなくとも落ち着ける二人でいたい。何より、ことあるごとにシていたい。全手、場所だけでなく、ノーマルもマニアックも全部したい。


 妄想が無際限に膨らむ、止まりそうにない。けれど手詰まりの事実もまた思い出す。


 刈谷くんがくるみじゃないなら、くるみはどこ?


 雪菜の裏にいるのは間違いない。いや、だとしたら、ある可能性に至る。


 私のことを知っていたから、同じ学校に限定していたけれど、雪菜と関わりがある人物ならば話は別。雪菜は私のことを憧れていたらしいので、その話を十分にしている可能性がある。つまり、学校外でも私のことをよく知っている人物も含まれるのだ。


 うぅ、果てしない。

 

 そう思うと、また切なくなり、快感を求める気持ちがさらに強くなる。

 

 刈谷くんがくるみだ、もう探さなくていい。そんな甘言をささやくように、体はさらに熱くなるが、私は必死の必死で堪えた。


 学校外の人物。今度はそっちに焦点をあてて探してみよう。


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