第2話 Queen Un(known)


 イギリスの街外れの教会。

 そこはデビルハンターたちの集う狩人教会の一つだった。

「クイーンアンの福音~?」

「そう、存在しないはずの女王アン。その異物が盗まれた」

「そんざいしないはずー?」

「そう、ようはエクスカリバーが盗まれたんだと思いなさい」

 随分とまあ分かりやすい。悪魔が存在する世界なのだからエクスカリバーも実在してもおかしくないと思うのだが。リィルは口には出さないでおいた。

 ロゼは手元のミニミ軽機関銃を分解しながらメンテしている。

 リィルは聖水手榴弾を手元で転がしながら。

「で? その福音とやらを回収してこいと?」

「話が早くて助かるわ」

 目の前にいる歳を召した修道女はシスター・バランス。

 狩人教会の重鎮だ。

「場所は」

「アメリカ、カンザスシティ」

「はぁ!? 旅費は出るんでしょうね?!」

「いくきまんまんじゃーん」

 ロゼの冷やかしなど気にせずバランスを問い詰める。

「払いましょう。依頼金も全額前払いで」

「やたっ……って全額前払い!?」

「すごーい」

「これは信頼と枷です。貴方達のような戦闘狂ならば逃げないという信頼と、逃げたら狩人教会が総出で襲いに来るという布告です」

 一瞬の沈黙の後、罵詈雑言が降って湧いた。

「いやいやいや、それならその総出とやらに福音の回収を頼んだらどうなのよというか戦闘狂とかいう評価の説明プリーズ!!」

「りぃるとおなじかてごらいずはのー」

「シャラップ! いいですか、これは神託なのです」

「げっ出たよシスター・バランスの神託……」

「ぐえー」

 シスター・バランスは神託を聴けるのだという。

 そのジャンヌダルクのような異能から幼い頃より狩人教会にて育てられ、今に至るという訳だ。

「クイーンアンの福音を回収せねば来たるは悪魔の時代……」

「それが神託?」

「あくまのじだいだー」

「そうです。だから行きなさい。一刻も早く、ハリーハリーハリー!」

 

 ☆


 そして今に至る。

 悪魔の蔓延る魔地、カンザスシティ。

 飛行機を八時間ほど乗って。

 そこから車に憑依した悪魔カースドと共に十時間以上もドライブした二人。

「やっと着いた……で、クイーンアンの福音とやらはどこ!?」

「おちつけー」

「そうだぞリィル、事を急いではいけない。何事にも順序というモノがある」

 悪魔に常識を説かれるとは世も末だと思うリィル。

 彼女はカンザスシティの地面に倒れ伏し。

「じゃあ休みたーい!! 私達ぶっ続けで移動し続けたじゃなーい!!」

「たしかにー」

「そう、休息は必要だ。私もガソリンが欲しいね」

 近場のホステルを探し出し泊まる事にする二人、カースドは適当なとこに置いて来た。

 ほっとけば勝手に動き出すやつだ。

 気にする事は無い。

 呼べば来る。

 チェックインを済ませて鍵を貰い部屋へと突撃する修道女二人。

 怪訝な顔をするカウンターの婆さん。

 ベッドに倒れ伏す二人。

「たはー」

「しっかし疲れたわね……あの神託ババア人使いが荒いのよ」

「たしかにー」

「ロゼ、あんたは今回の依頼に何か疑問点は?」

「むしろぎもんしかないー」

「だよね……これを機に私達を始末したいとかそういうアレじゃないでしょうね……」

「ありうるー」

 その時だった。

 爆音がカンザスシティに響く。

「せんそうのおとだー」

「嫌な音だわ……」

 アメリカはただでさえ悪魔のメッカなのだというのに。

 彼女たちには眠る暇さえ与えられないようだ。

 二人は装備を固めてカースドを呼び出す。

 ――さあ、悪魔祓いの時間だ。


 ……to be continued?

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