第4話

お待たせしました。あの、…もう少しだけ待ってください、鍵だけ閉めてしまいますから。

…すみません、本当にお待たせしました。私、その、この年にもなって、きちんと社会に出てお勤めした経験、あまりないものですから…。本当にきびきびしていなくて、お恥ずかしいです。

ええと、…あれは祖母の仕込みなんです。「葵は本当に良い子なんだけれど、少し頼りないところがある」っていつも…。「せめて、家においでになるお客様くらいは、きちんとお迎えできるようにならなきゃ」って。

…そうですか?ありがとうございます。私じゃなくて、祖母の手柄です。祖母も伍代さんにお褒め頂いて、きっと喜んでると思います。

……はい、ちょうど三ヶ月前の、今年の八月で、丸二年、…ええ、三回忌でした。

いえ、特に法事は…。肝心の私がこの有り様でしたし…。それに、…こんなこと言ったら悪いですけれど、本当は母と、それに父とも、私、あまり顔を会わせたくないんです。お花と、普段よりも多めにお菓子用意して、祖母のご機嫌、取ったつもりですけれど…。

あの…伍代さん、うちの祖母のこと、後藤さんあたりから…。

そうなんです。うちの祖母、すごくしっかりした人だったのに、急に認知症に…。その、私と一緒にスーパー行くと、昔、私がほんの子供だった頃は、あれこれお菓子を買ってくれって言う私に、「駄目でしょ、どれかひとつ!」って言ってたのに、晩年は逆に、祖母の方が「あれも欲しい、これも欲しい」って…。……あれ…?…私、祖母が亡くなってから、祖母のことでは全然泣けなくなったはずなのに…。

……すみません…。何か私、…変、ですね…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る