第10話性格破綻なメイド様?

「あは。本当に可愛いなぁ玲様は……」

「私が可愛いのは当たり前でしょう?」


 私が可愛いなんて、自分自身が一番理解している。


 それは偏に深夜に好かれるために、今まで死ぬほど自身を磨き、惜しみない努力をしてきたから。


 そんな私が可愛くないわけがないし、私の可愛さを否定することは、私自身の否定に他ならない。


「ああ、そういうことじゃないですよ~。私が言いたいのは……」


 雛菊は私の耳元で囁く様にこういった。


「人殺しなんてできる勇気ない癖に、一生懸命見栄を張ってみせるそんな姿が可愛らしいって言ったんですよ」


 私はゾクリとした嫌な感覚がすると、雛菊を思い切り突き飛ばし、彼女と距離をとった。


「いたぁ~い、何するんですか?」

「うっさい。大体今のはあなたが悪いんでしょう?」

「えぇ? 私なにか悪いことしましたか?」


 あの顔、マジで自身が何を言ったのか理解していない顔だ。


ーーこれだから私はコイツを信用できないのだ


 これ以上、コイツと会話をしていると私の精神がのまれてしまいそうだ。


「雛菊。今すぐ私の部屋から早く出ていきなさい」

「嫌で~す」


 そう来ると思った。こいつはメイドの癖して、私のいうことを全く聞かない。本当この傍若無人っぷりは誰に似たんだか……


「大体玲様はこのままでいいんですか?」

「何が?」

「そんなの深夜君とのことに決まってますよ」

「……それはどういう意味かしら?」

「実は私、今日のお二人のやり取りこっそり聞かせて貰ってたんですよね~」

「はぁ!? 貴方まさか……私に盗聴器を仕掛けていたの?」

「ピンポン、ピンポン。大正解。流石玲様。頭いいですね」

「いや、誰が考えたってわかるでしょう」


 それにしても一体いつの間に盗聴器なんて仕掛けたのやら。第一、どこからそんなもの入手した。


 まあ大方お父様が私の監視の為に与えたのだろうが、全く余計な事をしてくれる。


「あは。それもそうですね。それに玲様にとってはそんな事よりも深夜様の理性をいかに壊すかが大事ですもんね~」

「……そうよ。悪い?」

「いえいえ。全然、全く。悪くないですし、私としても早く深夜君とくっついてもらわないと面白くないですから」


 ……面白くないですって?


「……貴方一体何を考えているの?」


 つい先ほどまでこいつは、深夜の事が男性として好きだと言っていた。そうなると私とこいつは必然的に恋敵になるはずなのだが、争う素振りどころかむしろその逆、深夜と私がくっついて欲しいと言っている。


 そんなのどう考えてもおかしい。誰だって自分の好きな人は、自分のものにしたいはずなのに、こいつにはその感情が微塵もない。


「ん~? 別に私は何も考えていませんよ?」


 嘘だ。今、わずかに瞳が揺らいだ。確実に彼女は何か考えている。


 一体ここで彼女が何を考えているか吐かせるのは、非常に難しい。


 コイツには理論は通じないし、かといって暴力で強引に吐かせようとしても、コイツは決して痛みに屈しない。


 むしろその痛みを快楽にして、もっと自身を嬲ることを要求してくるほどに、コイツの頭のねじは外れている。


「ああ、でもでも一つ言えるのは今日の玲様のとった手段は悪手だということくらいですかね」

「……そんなのわかってるわよ」

「あは。そうだったんですか」


 実際、今日の私がとった手段は悪手に他ならない。


 いくら深夜の理性を崩すためとは言え、深夜の気持ちをあまりにも無視しすぎた。


 もし今日の様な事を続ければ、次第に彼の心が私から離れて行ってしまう事は、私も充分理解している。


「じゃあどうしてあんな行動とったんですか?」

「……どうしてあなたにそれを言わないといけないの?」

「ええ~いいじゃないですか。教えてくださいよ~」

「絶対に嫌」


 深夜の事が好きすぎて、好きの感情が暴走してあんなことをしてしまったなんて口が裂けても他人に言えるわけがない。


「もう~ケチだなぁ。まあそんなところも可愛いですが」

「うるさいわよ。メイド風情が」

「あは。本当可愛いなぁ……食べちゃいたいくらい……」


 ねっとりとした実に嫌な言い方だ。大体、私にレズの趣味はない。


 深夜も……ないよね? 多分……


「さてさて玲様をからかって充分満足しましたし、私はこれにてお暇させてもらいますね」


 はぁ……やっとか。本当、我ながらどうしてこんなのを雇っているのやら。


「あ、それと競泳水着の件。私の方でしっかりと準備させてもらいますので、とびきりエロい奴。期待しててくださいね♪」

「うっさい!! さっさと出てけ!!」

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