したく

「先輩? どうしたんですか?」


 はっと意識が戻される。

 会社だ。仕事中の、自分の机。

 隣の机の後輩がこちらに身を乗り出している。


「あ、ごめん。なんだっけ。」

「あー、ここなんですけど、ちょっと私わからなくって。」


 この後輩はいつもそうだ。

 わからないところを聞くふりをして、仕事をやってもらおうとする。


 面倒だから、いつもは「いいよ、やっておくよ。」と言ってしまうんだけれど。


「……先輩?」


 後輩の怪訝そうな顔。


 今日は、なんでだろう。


「――あ、ちょっと、うん。」

「どうしたんですか? 顔色悪いですよ。」

「うん……。」


 いつもと同じことの、はずなのに。


 なんでだろう。


 なにもしたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る