まずい!)


 千晶は焦る。


(拙い拙い拙い!)


 咲が連れて行った少女――の姿をした悪魔デビルこそが、黒幕だったのだ!


(このままでは死んでしまう――――……!!)


「【対物理防護結界アンチマテリアルバリア】ッ!!」


 千晶は残存ヱ―テルの全てを込めて、防護結界を発動させた。





   ❖   ❖   ❖





「あはっ、あはハはハハっ!」


 少女の姿をした悪魔デビルが高笑いをする。

 少女の額から、ヤギのようなねじれた二本のツノが生えてくる。


「上手くいった! 上手くイッタ! ――新鮮な処女の心臓よ!」


 悪魔デビルが咲の心臓にかぶりつく。


「…………アレ?」


 心臓を喰い破ってから、気が付いた。

 人間の心臓とは、こんなにも青白いものだっただろうか?

 やけに左胸が痛い。

 見れば自分の左胸が、真っ青な血で濡れている。


「……あ、コレ……私ノ心臓ダ――」





「――――コン」





 背後で、鳴き声がした。

 悪魔デビルが振り向くと、倒れ伏していたはずの少女――悪魔祓師ヱクソシストの助手が、立ち上がっていた。


コンコンコン


 少女――さきは今や、炎のように赤く輝く九本の尾を背負っている。


「――――コン


 真っ赤に燃え上がる少女の瞳と、目が合った。

 途端、赤黒いヱ―テルが暴風となってエントランスに吹き荒れる!


「ヒッ――」


 ヱ―テルが灼熱の炎と化して、悪魔デビルの視界を覆い尽くした。





   ❖   ❖   ❖





「けふっけふっ……」


 気が付くと、咲は屋外で一人、座り込んでいた。

 いや、屋外ではない。

 自分の周囲だけ、石造りのタイルが残っている。それ以外は、屋敷だったらしきものの、燃えカスがあるだけ。


「あぁ……九尾狐のやつが出てきたのか」


 見下ろせば、自分は全裸だった。

 左胸がズキズキする。

 触れると、確かな鼓動が返ってきた。


「また派手にやりましたねぇ」


「――!?」


 背後から千晶の声が聴こえてきて、咲は縮こまる。

 大慌てで髪を下ろし、背中を隠した。


「何はともあれお疲れ様です、咲」


「……服が燃えてしまった」


「ええ、屋敷ごとね」


 千晶がフロックコートを肩にかけてれた。

 咲はコートをかき抱き、そっと匂いを嗅ぐ――が、血と硝煙の臭いしかしなくて、げんなりする。


「……その人たちは?」


 肩を貸し合ってよろよろと歩く四人の女性たち。


「行方不明になっていた悪魔祓師ヱクソシストです。味方の救出完了! 敵悪魔デビルの盗伐も完了! 完璧パーフェクトな仕事というわけですね!」





何処どこがパーフェクトな仕事だい! ああん!?」





 空から、声が降ってきた。

 とんがり帽子に真っ黒なローブ、箒――如何にも典型的『魔女』風の恰好をした童女が空から落ちてきて、綺麗に着地し、その箒でもって千晶の頭をぶつ。


「屋敷が!」ゴン!


「燃えて!」ゴン!


「なくなっちまったんだよ!?」ゴンゴンゴン!


「痛い! 痛いですって師匠!」


 この見た目は五、六歳にしか見えない童女は、『東洋の魔女』とか『ミス・オールド』などと呼ばれている謎多き人物で、第七旅団の単騎少将を拝する悪魔祓師ヱクソシスト

 千晶の師匠でもある。


「はぁ~……咲や、儂ゃこの莫迦ばか弟子と話があるから、この子たちを連れて先に鎮台ちんだいへお行き」


「え? でも――」


「咲、先に行ってライスカレーの大盛を頼んでおいてください」


「む。トッピングはどうする?」


ハンブルグステーキハンバーグがあるならハンブルグステーキハンバーグ。ないなら――」


「「――エビフライ!」」

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