DUNGEONERS:FORGOTTEN

澁谷晴

第1章 フィルの地下迷宮

第1話 目覚め

 薄暗い通路でその迷宮守りダンジョナーは目覚めた。最初にまずしたことは周囲の確認だ。さしあたって魔物が現れたり、天井が崩れ落ちてきたりといった危機はなさそうだ。体も傷ついてはいない。続いて右手に、赤みがかった金属でできた、一振りの剣を持っていることに迷宮守りは気づいた――その刃は半ばで折れているが、まだ武器として使えそうだ。


 体内にはほぼ魔力がない。ごく単純な魔術を数回使っただけで枯渇するだろう。ひとまずは折れた剣だけを頼みに、ここを出なければいけないようだ。通路は筒状で、天井には魔力灯が点り、青白い光をぼんやりと放っている。配管がごちゃごちゃと走っており、一部は破損して、水が流れ出ていた。


 まっすぐに進んで分かれ道に到達し、左右に続く通路のどちらへ向かうかを少しばかり考え、その片方に向かって歩き始めた。根拠はなく完全な勘だ。


 ここに来た経緯はおろか、自分の名すら思い出せないことに迷宮守りは気づいた。恐らくは、この場所――見知らぬ迷宮ダンジョンを探索するうちに何らかの罠か突発的に発症した迷宮病により、記憶を喪失したのではないか。


 しかし、確かな点が一つある。自分が〈迷宮守り〉――迷宮に踏み入り、魔物や罠を攻略し、財宝や資源を持ち帰る生業であるということだ。


 通路の向こうには扉があり、施錠されてはいなかった。開くと、そこは恐ろしく広大な空間だった。


 ひとつの都市が丸ごと入るほど巨大な、迷宮の一階層だ。天井と床の間には、巨樹のような柱がいくつも立ち並んでいる。今、自分がいるこの場所も、それらの支柱のうちの一つ、その半ばの側面らしい。


 天井に設置された、巨大な魔力灯に辺りは照らし出されているが、この階層は静寂に包まれ、動くものもなにもない。居住区としては使用されていないようだったが、隣の支柱の根本で、煙が上がっているのが見えた。誰かが火を焚いているようだ。ひとまずはあの地点にまで移動しようと迷宮守りは考えた。この支柱を下って、地上に降りなければいけない。

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