第17話 散策

 電車に揺られ、俺が降りたのは原宿駅。

 俺が死のうと思っていた場所の候補の内の一つ。

 

 平日の昼時だというのに小さな駅構内は人でごった返していて、学生服を着た人もちらほら見られた。

 サボっている学生か、それともわざと学生服を着ている大人か。

 まあ、どうでもよい。


 俺は原宿駅を出て、名の知れた竹下通りに向かった。

 人波に飲まれ、駅から100mほどの距離なのに着くまでに10分ほどかかってしまった。

 しかし人が本当に凄い。

 

 別に夏休みシーズンでもなければ記念日でもないため社会人は仕事、学生は学校に通っている時間だろう。

 だが、歩いている人はほとんど女性なのできっと講義の無い大学生なのだろうと思いながら、竹下通りを散策する。

 

 片手に虹色のわたあめを持ち、もう片方の手にはクレープを持っている女性。

 他にも何かのアニメのグッズやタピオカを持っている人も見えた。

 秋葉原ではないのにアニメのグッズを売っているのかと思いつつ、さらに奥に進んで行く。


 クレープ屋が見えた所でなにか甘いものが食べたいと思った。

 俺はクレープ屋から続く小さな列に並んだ。

 後ろで多くの足音がする。

 

 俺みたいな日陰者には眩しすぎる世界だ。

 そう思いながらも待っていると、5分ほどで列の先頭になった。


 「何になさいますか?」


 クレープ屋らしい小さなサンバイザーを付け、店専門の制服を着た女性が受付に立っていた。

 

 「えっと、イチゴクレープで」


 俯きながら前に進んでいたため、俺は急に話しかけらたことに少し驚いた。

 だが、ここで大きく驚いては目立つしなにより恥ずかしい。

 そう思い、俺は声を出すことを我慢して一番最初に目についたイチゴクレープを頼んだ。


 「はい、イチゴクレープですね。550円です」


 いつもギリギリで生活していたせいか、財布の中には先ほど降ろした4万円しかない。

 俺は「すみません、大きいのしか無くて」と言いながら一万円を出した。

 店員の女性は嫌な顔一つせず「かしこまりました。こちらお釣りの9450円です」と言い、お釣りを銀の皿の上に置いた。

 俺はお釣りを受け取り、財布に入れると1分もせずにクレープを渡された。


 俺は店員さんに「ありがとうございます」と言いながらクレープを受け取り、店から少し離れて一口食べた。


 ほのかな甘みを感じられ、ほんのりと温かくしっとりとしていて生地がとても美味しい。

 一口でイチゴにはたどり着けなかったが、それをイチゴソースがリカバリーしていて一口目でもイチゴの酸味を感じる事が出来る。

 二口目、三口目からはイチゴソースがかかった生クリーム、そして主役のイチゴにたどり着き、甘さと酸味がマッチしていてとても美味しかった。


 スーツにこぼさないように食べていたため、食べるのに10分ほどかかった。

 設置されたゴミ箱にクレープのごみを捨て、外れた道から戻ろうとした時、少し狭めの階段が見えた。

 俺はなぜかその階段に興味を持ち、気がつけばその階段を上っていた。

 

 階段を上るとどこかの敷地に出た。

 入ってはいけない場所だったのかと不思議に思いながらも横を見てると、おみくじを引けるボックスが設置されていた。


 一回100円、そう書かれたボックスの前には数人ではあるが人だかりが出来ていた。

 おみくじを引いても良いとも思ったが、ボックスの少し右奥にまた階段が見えた。

 俺はまた、階段の近くに行き、上ってみる事にした。


 便乗したのか、俺の後に来ていた家族連れもこの階段を上り始めた。

 20段ほどの階段を上り、目の前に現れた景色に俺は感動した。


 辺り一面に広がる軽石、周りは大きな木々が支配していて風が吹くたびに「パサパサ」と心地の良い音が俺を癒す。

 俺が一つ足を出すと、踏まれた軽石が「カラッ」と響きの良い音を出して、それと木々の葉の音と絡み合い、程良い旋律を奏でる。

 

 俺は数秒間立ち止り、音を楽しんだ後、この位置から見えた大きな建物に向かった。


 近くに来て見て思ったが、この建物はどうやらここは神社のようだ。

 ネットで現在地を調べてみると『東郷神社』という場所が出てきた。

 

 この神社はネットによると海軍軍人を祀った神社であり、この下には『神池』と呼ばれる池があるらしい。

 4月頃に来ていれば満開の桜を見る事が出来たという。

 その証拠に今、神池に来て見たが池に桜の花びららしきものが散乱している。

 今度、晴とここに来て見たいな。

 そう思いながら、俺は東郷神社に戻り、賽銭箱の前に立った。


 財布からさっきお釣りで貰った50円玉を取り出して、賽銭箱に投げ入れた。

 本当は5円玉が良かったのだが、あいにく財布には入っていなかった。

 二回両手を叩き、手を合わせた後、俺は心の中で願った。


 【奈菜美と上手くやっていけますように】


 俺はそう願った後、もう少しだけ竹下通りを散策して原宿駅に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る