第39話 あらあらあらあら!似合ってますの!

「あらあらまあまあ」とか言い出しそうな顔で、おしゃれをした僕を見て、少しだけ凉坂さんが頬を赤らめる。

僕がそれなりに楽しみにしていた事を知り、彼女は嬉しそうにしている。

服を選んだ理由は、彼女が良く行く場所にラフな格好では失礼だと感じたからだ。もちろん美人と遊びに行けるから舞い上がっていたわけではない。

理性を求めて自分にそんな風に言い聞かせる。そうでもしていないと色々と耐えられなくなってしまいそうだからだ。


「じゃあ行きますわよ! 美月送り迎えはお願いしますわ!」

「はい、わかりました。直ぐに参りましょう」

彼女たちの導きにより、玄関を出て直ぐに車に乗せられる。

車に乗り、シートベルトを締める。嗅ぎなれていない高級車の匂いがこれからどうなるのかという緊張感をより強めた。


美月がエンジンをかけた時に、二人の会話に気になる部分があった事を思い出す。さっき凉坂さんが「美月送り迎えはお願いしますわ!」と良く通る高い声で言っていたのが気になる。

もしかしたら美月と三人ではなく、凉坂さんと二人っきりで遊べという事だろうか?

話す内容がある訳ではないので、それはとても困る。一方で二人っきりでほぼデートと言う魅力的すぎる内容が頭をよぎった。


「もしかして、今日は二人なの?」

凉坂さんに小声で話しかけてみる。小声なのは何となく美月に聞かれたら申し訳ないような気がしたからだ。

「ええ、そうですわ!」

僕の配慮は何のその、彼女は耳元で大きな声で返事をしてきた。おかげで少し耳が痛い。


何となく頷いて彼女に理解したことを伝える。

実際に二人という事が確定すると、デートが嬉しいという浮かれた感情よりも、ずっと疑問だったことを解消できるかもという気持ちが湧いてきた。


今僕たちは非常に奇妙な関係だと思っている。奇妙といえばまだ聞こえはいいかもしれないが、奇妙なんて言葉じゃ片づけた行けないような歪なものだ。


よくよく考えなくてもおかしい。こんな美人が今のところは美人局みたいな雰囲気を持たせずに、僕の家?いや、今住んでいるのは彼女の家か、とにかくそこで好き放題している。


いつ彼女たちに騙されて全てを失ってしまうか分からない。


……いや、こんなことを考えるのは流石に失礼だろう、偽物で騙されているだけかもしれないが、今の現状は彼女たちに何もされていない、いやそれどころか良いようにしてもらっている、凉坂さんは不器用ながらも気を遣ってくれるように見えるし、美月だってご飯などの世話を無償でしてくれている。

考えたら考えただけ怪しいように思えるが、今疑うのは人間としてダメな気がする。

問題の先送りをしているだけかもしれないが、疑うのは今の彼女たちに対してこれ以上ない失礼だ。


窓の外の綺麗な景色を見ながら心を洗い流す。

分からない事を考えていると、運転席の方から「付きました」と褒められたがりの声が聞こえた。


ここで「うるせぇ!このメイド」と言わないで普通にお礼を言った僕は、まだ自分が環境に染まり切っていない事を自覚できた。


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