第33話 フランベ?ファイアー!ですの! あーんですわ

バン!バン!バン!

ソファーに隠れて、大きな音から身を守る。実際には守れている気になっているだけだこんな綿の塊になんて防御力の欠片もない。


「啓さん、今からフランベを行いますわ!」

「うん、頑張って! 楽しみにしてる!」

ハンバーグってフランベするものだったっけ? いや、料理をよく知らない僕が口を出すことは良くない。そんな気持ちで彼女を応援する。

ソファーに隠れたままの言葉なので心は本当にこもっていない。


ソファーの裏に隠れていると台所の方からヴァアアアアアアアと炎が燃え上がっている音が聞こえてきた。

調理場を見たいという気持ちと見たくないという気持ちが心の中で沸々と湧き上がる。でも、やっぱり凉坂さんクッキングは怖いので、気持ちをぐっとこらえて、隠れ続けた。


「出来ましたわ! 啓さん、早く来てくださいですの!」

その後何か謎の調理音がひとしきり響き渡ると凉坂さんがキッチンから顔を出し、こちらを呼び出す。


「おいしそう」

ご機嫌取りでも、お世辞でもなく、高そうなお皿に盛り付けられたハンバーグは輝いて見えた。見た目もさながら、こちらに近づけただけで嗅いだことのない香辛料の良い匂いが鼻に抜ける。

僕の好物がハンバーグだという事を除いても確実にクオリティの高いものなはずだ。


「啓さん食べて頂けますの?」

不安そうに上目遣いで凉坂さんが聞いてくる。

「凄く、美味しそうなんだけど、僕だけ食べるのは気まずいというか、美月も料理してくれているわけだし」

「美月の分は取ってありますわ、私の分はいいので啓さん折角なので熱いうちに食べてください!」


気づかいや優しさがありがたい、でも凉坂さん自身の分がない。せっかく作ってもらったのに彼女の分がないなんて申し訳なくて食べられやしない。


「もう、啓さん何を考えているんですの? 冷めないうちに早く食べてくださいですわ!」

少し怒られてしまった、これ以上怒られる前に頂いておこう。

美味しい、見た目や匂い通りの美味しさだ。肉汁とソースがバランスよく嚙み合っている。なぜあのパワー系料理からこれが生まれるのかが分からない。美味しすぎる。こんなに美味しいものを一人で食べていい物か?


「凉坂さんの分は?」

「私は大丈夫ですわ! 遠慮せずに食べて欲しいですの!」

「そういう訳にはいかないよ、せっかく作ってくれたんだし」

「じゃあお言葉に甘えて、啓さんのを少し頂きますわ!」

「うん、どうぞどうぞ」


凉坂さんの前に皿を差しだす。半分は彼女に食べてもらえたらいいな。

彼女の柔らかい手が僕の手に触れる、僕が数秒前まで使っていたフォークが彼女の白い顔の前へと運ばれていく。

凉坂さんが口にハンバーグを運ばれるのを待つように口を開ける。僕の脳が暴走を始めた。

熱い。熱い。

熱を持ったハンバーグを僕は理性を殺して彼女の口に詰めた。


にこっ と笑顔で笑う彼女は僕の脳の暴走をどんどんと加速させていく。

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