第15話 めちゃくちゃ可愛いな。私の物にしたい。あーカワイイ。無邪気で無防備ですわ?


「じゃあクラスで使う教室を案内するよ」

「楽しみですわね!」


廊下を歩いていると「タン,タン,タン」と上履きが擦れる音が聞こえて来た。まずい、誰かと会うわけにはいかない。せっかく美月と交渉までして安全なルートを選んだのに、僕はここで見つかって尋問されるのか?


もし相手が賢い奴だとして、その場は何とかなっても陰で「得体の知れない女を住まわせて財産を奪われてそう」とか噂されるのか? それは普通にめちゃくちゃ嫌だ。

もし馬鹿な友達と会って「何だその美人紹介して? はあ? 一緒に住んでる? お前羨ましすぎるだろ、ヤバお前、ドスケベかよ」とか言われるのか? それはまあ、ギリギリ嫌だ。


とにかく、誰か分からないやつに会うのは絶対良くないことが起こる。そう直感が告げている。どうすればいい、頭を回せ。考えろ。足音が一歩ずつこちらに近づく。


ドクンドクンと鼓動が大きな音を立ててきた。


そうだ、空き教室!今なら入れるかも

「一回個々の教室に入りたい。」

小声で二人に伝えてドアの取っ手に手を掛ける。思いっきり腕に力を入れても開かない。鍵だ。鍵がかかっている。


どうすればいい、終わりだ。明日からの変なあだ名を付けられることが決定した。

「人間ダメだと思っても、考えるのをやめてはいけない。」

病院の医者だったか?言葉が頭の引き出しから出てくる。

諦めないでいい、近づいてくる足音、隣には二人の美しい女の子、周りは開かないドア。

僕以外ならどう打開する?似たような事をはなかったか?

頭の中の引き出しをもっと強引に探し始める。

酸素と血を頭に回せ。思考を深めろ。そうすればお前は助かる?


そうだ、ドアを開ければいい。僕には無理でも、ドアの鍵なんか簡単に破壊できる子が隣にいるじゃないか。


「凉坂さん、このドアって開けられる?」

遠くには聞こえない程度の音量で質問を投げた。

「え? はい、恐らく出来ると思いますわ!」

「開けてくれ」

必死な権幕で言ったからか、重大さが伝わったのか彼女は躊躇なくドアを開け始めた。


「開きましたわ」

凉坂さんは、平然に音もなくドアを開ける。鍵は掛かっていたはずなのに……。

そんな事は今はどうでもいいか、早く二人とともに隠れなければ。


「二人とも中に入って」

「分かりましたわ!」

ジェットコースターに乗るようなテンションのお嬢様とは対照的に、美月は淡々と教室に入っていった。


教室側から見たドアからは取っ手の上に付いた鍵が歪んでいることがハッキリと分かる。音もなく曲がった金属にビビる暇もなく、トントンと足音が近づいてくる。


ジェスチャーで二人にはしゃがんでもらって、自分も身を潜た。足音が目の前のドアを通る。

ドア一枚を挟んだ先に人の気配を感じる。

向こう側にいる人間が気まぐれでこちらのドアを開けなければ大丈夫なはずだ。幸いなことに隣にいるお嬢様たちも大人しくしていてくれる。

頼む、このまま過ぎ去ってくれ。


なぜか足音が教室の前で止まる。ヤバイバレたか?

やばいやばい、終わった。明日から覚悟を持って過ごそう。


「誰もいないよね? ここら辺なら大丈夫かな……。」

聞き覚えのある高い少女の声が聞こえる。恐る恐るドアの小窓から姿を確認した。やっぱりクラスメイトの相本さんだ。

長めで癖のある黒髪が彼女の象徴だ、遠くからでもすぐにわかった。でも僕と同じ帰宅部の彼女がどうして?


考えることは色々あるが、幸いなことにこちらには気が付いてなさそうだ。

引き続き、声を押し殺して彼女の行動を見よう。

彼女もジーっと何かを観察しているようだった。


「あー、あの女の子めちゃくちゃ可愛いな。私の物にしたい。あーカワイイ。無邪気で無防備で。やっべ、興奮してきた。可愛いい、マジで好きだわ」

急に彼女はボソボソと低い声を言って、突然スマホで外を録画し始めた。

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