第13話 無感情キャラは啓さんには無理だと思いますのよ?

「到着しましたわね!」

メイドさんによる暴走ギリギリの運転が終わり、あっという間に見慣れているはずの学校に付いた。知らないうちに駐車場が出来ていたのはスルーしよう。


しかし、なんだか違和感を感じる。

何かがおかしい。僕が知っている道を進んできたはずなのに、そこに待ち構えていたのは何か違う空間だった。


「なあ美月ちょっと教えて欲しい事があるんだ」

「はい、啓様なんでしょうか?」

「なんか違和感があるんだけど」

「はあ、そんな違和感という抽象的なものを言われましても困ります。私は天才メイドと呼ばれていますが啓様のいう事が理解できません」

外だからか運転をして興奮したからか、それとも普段からなのか分からないが美月は面倒くさそうにドSモードで答える。


ドSメイドはちょっと怖いので、比較的機嫌の良さそうなお嬢様に今回の質問をすることにした。


「凉坂さん、質問なんだけど、なんか僕の知ってる校舎とちょっと違うように見えるんだけど気のせい?」

「流石です啓さん!もちろんです、私たちの学び舎ですので少しでも良い環境で学んで欲しいと父が言っておりました!」

とても自信満々に彼女は顔を近づけて答える。昔動画サイトで見た、大型犬が褒めてと言わんばかりに待っている様子を思い出した。


「なるほど、流石凉坂さん。具体的にどういうこと?」

「校舎を素材だけ少し変えて作り直したそうですわ!」

褒められないことに一瞬凉坂さんが顔を曇らせる。だがすぐに、いつも通りの楽しそうな顔に戻り違和感の理由を答えた。


確かによく見ると校舎が綺麗だ。外から見ただけでもなぜか床とかテカテカしてるし、天井の蛍光灯とか細かい部分もちょっとずつ豪華仕様に代わってるし。


大丈夫だ、僕は驚いてない。

早く完全に驚きという感情を捨てて、金髪で可愛らしいお嬢様と美人なメイドとの生活を楽しむんだ。

二人とも突発した行動や言動さえなければ、とどのつまり黙っていればめっちゃくちゃいい子達なんだ。たぶん。だから気にせずに生きよう。


「なるほど、それで今日は下見に来たけど、どういうところが見たい?」

「そうですね、この学校はどんな施設があるのですか?」

「施設って言われてもなあ。普通の学校だし体育館とプールとかしかないよ」

「では、啓さんのお知り合いとかに会わせていただく事ってできませんか?」

「え、僕の知り合いですか?」

「はい!啓さんのご友人に挨拶させていただきたいと思っておりますわ」

やる気満々といった風に彼女は言う。


しかし、それは困る。だって友達にこんな美人二人と歩いてる姿を見つかっただけでも数時間問いただされることは間違いない。

いつか一緒に住んでいることがバレるにしても今日くらいは、頼むからゆっくりさせてほしい。


「いやーちょっともう帰っちゃったっぽいっすね」

白々しく答えたが、純粋っぽいお嬢様は信じているみたいだ。

「そうですか、じゃあ私確認してまいります。お嬢様待っていてください」

「美月待って、お願い、いや、待て二人だけで話をしよう」

「私にナイショ話ですか?」

ちょっと悲しそうなお嬢様を置いて、数メートル先に美月を連れていく。


「美月、お願い。後でお前のいう事をなんでも聞くから今日は黙っててくれるか?」

クールな表情のメイド顔がパーッと明るくなる。その嬉しそうな表情と裏腹に少しだけ嫌な予感がした。


その後もじもじとしながら美月は

「それは啓様になんでも命令させる権利でもいいのでしょうか?」と問うてきた。

思わぬパンチを受けて体がよろめく。

ゆっくりと頭の中の天秤をそーっと動かし、究極の二択の結論を出す。

「分かった。命令させる権利と交換だ。」

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