第9話 あら、そうなのですか、私そういう事に疎くてですね……///

「あの、全く痛くなかったです」

「あら、そんなことは絶対にありえませんは、人は殴られると物凄く痛いと皆様から聞いておりますわ!」

皆様から聞いております、教育をした人が物凄く優秀だったんだろうな、この馬鹿力少女に簡単に暴力を振わないようにさせたなんて人類の救世主かもしれない。


「そんなことはどうでもいいので、彩様も啓様も私に対しては強く殴ったり、口汚く罵ってください」

「美月いつも言っておりますが、私は本当は殴るのも口汚くするのも苦手なんですわ、あなたがどうしてもというので、あまり美しくない言葉を使っているのですよ」

「ありがとうございます、本当に彩様のお心遣いには感謝してもしきれません。それに比べて啓様ときたら、何度言っても敬語を使いますし、視線が気持ち悪いですし。」


「僕への悪口は分かったから一度休ませてもらってもいい?あと別に君に視線を向けてはいない」

たぶんを追加で付け足したいところだが、ここは黙っておくことにするか。

「もちろんですわ!」

凉坂さんは僕の手を引いて僕の部屋へと向かう。改めて、この豪勢で自宅とは全く違う家なのに、自分の部屋そっくりの場所がある感覚というのはとても不思議だ。


「では、美月は外で待っていて」

「はい、分かりましたお嬢様。何かされそうになったら私に仰ってください。何か危険があれば私が代わりに請け負いますので、絶対に私に言ってくださいね」

「分かりましたわ、美月ありがとう」


どうやら僕はかなりメイドさんに嫌われているらしい。危険な事なんてしない、というか破壊兵器じゃない僕の方を心配してくれよ。


「そんなことしないし、後ごめん、出来れば凉坂さんも外でお願いできない?」

「どうしてですか?私は邪魔にはなりませんわよ」

焦ったように彼女がまくし立ててくる、今はこのオーバーヒートしそうな脳を冷やしたい。


「ごめん凉坂さん、ちょっと今一人になりたくって」

「本当にダメですか?」

小動物のような目でこちらを覗き込んでくる、やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。拒否しにくい。


「彩様、啓様はケダモノなので一人でしか出来ない恥ずかしい事を、今からしたいそうなので放っておいて差し上げてください。」

「あら、そうなのですか、啓さんごめんなさい、私そういう事に疎くてですね」


もじもじと恥ずかしそうにお嬢様は顔を隠す。何を勘違いさせるようなことを言っているんだこのメイドはあああああああああああ。


「違うから、断じて違うから!」

「啓様そうなのですか?まさか、私に手を出したいからお嬢様には出て行って欲しいと」

「美月はちょっと黙っててくれ、一人になりたいって言ってるだろ」


「啓様その意気です!私の主人としての自覚が芽生えてきましたね」

ギランギランに目を輝かせて嬉しそうなメイドの事は放置することにした。この手のタイプはこれ以上関わると逆に喜びそうだ、お願いだから適切な距離感を保たせてほしい。


「という訳で、一人にさせて頂きます。」

逃げるようにというか実際に自室(仮)へ逃げ込んだ。

恥ずかしがって放心しているお嬢様も、放置ですら楽しんでいそうなメイドの事も今は放置しておこう。

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